連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第42回。人工呼吸の使用・管理は難しく、日本では専門医の数が不足している──新型コロナウィルス感染症の重症病棟が容易には増床できない理由と、その処方箋を集中治療のエキスパート讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が解き明かす。

 一都三県の緊急事態宣言は再延長中ですが、新規陽性者数は下げ止まり、リバウンドの兆候さえ見えてきています。この再延長にあたっては、リバウンド抑止の他に、「病床の逼迫状況の改善が不十分」も理由の1つとして挙げられました。おもに重症患者を診療する私の印象では、重症病床については少しずつ状況が改善してきたけれど、やはり改善スピードが減速し、逆にわずかながら上昇に転じており、「嫌な感じ」を抱いています。

 病床の逼迫状況の改善のためには、感染者数を減らすと同時に病床数を増やすことが必要です。重症病床に関しても、さらなる増床に向けての努力が引き続き行われています。しかし、「なんでもっとドーンと増やせないのか」「そもそも重症病床が少なすぎるのではないか」、といった批判・疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。ではなぜ一気に増やせないのか。その一因となっているのが、人工呼吸管理の難しさです。

人工呼吸が必要となる患者

 人工呼吸器とは、その名が示す通り、患者自身の呼吸だけでは生命の維持ができない状態になった時に、人工的に呼吸を補助する機械です。マスクで行う比較的軽い人工呼吸もありますが、ほとんどの場合は気管チューブを口から気管の中に挿入します(=気管挿管)。また、治療が長期に及ぶ場合は、喉を切開して、そこから気管にチューブを入れることもあります。こうして、機械によって人工的に息の出し入れを行うわけです。

 人工呼吸が必要となる患者は、大きく2つにわけられます。1つは、自分自身で息の出し入れができなくなってしまった(=肺が動かない)患者。たとえば、手術で全身麻酔をする時は人為的に自発呼吸を止めるので、人工呼吸が必要になります。あるいは頭部外傷による昏睡状態などになり、自発呼吸が止まったり、舌の根元が喉に落ち込んで(=舌根沈下)、空気の通り道(=気道)を塞いでしまった場合です。

 もう1つは、肺の機能が悪化して、いくら頑張って呼吸しても必要とする酸素のレベルに達しない、あるいは二酸化炭素を取り除くことができない患者です。息の出し入れを患者の体に任せ、吸わせる酸素の濃度を上げることでなんとかなる場合も多いのですが、それだけでは間に合わないほど肺の機能が悪くなり、また息の出し入れも不十分になった時には、人工呼吸器を使うことになります。