連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第41回。中国の感染制御の実態とは? 新規感染者数が下げ止まってしまった日本が、参考にできることはないのか? 中国に赴任中の日本人ビジネスマンに讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が聞く。

 新型コロナウイルス感染症の震源地中国では、現在新規感染者がほとんど出ていません。しかし、日本では報道がほとんどないため、「中国政府の公表データは信用できるのか?(じつは今も市中で蔓延している?)」「どのような方法で感染を制御しているのか?」「人権が軽視されているというが、人びとは不満ではないのか?」等々、さまざまな疑問が浮かびます。中国の実態はどうなっているのでしょうか。中国に赴任中の長井昌也さんにお話を伺うことができました。

長井昌也(ながい・まさや)氏
自動車メーカー勤務。アメリカ駐在を5年経験した後、中国へ異動。北京、広州で広報責任者、四輪工場責任者を経験し、日本に戻り広報部長など務めた後、再び中国へ。現在は重慶にて小型エンジン製造拠点の責任者を務める。中国での駐在期間は合計で9年。

本当にひどかったのは武漢だけ

讃井 長井さんが赴任されている重慶とはどういうところですか?

長井 重慶は中国のほぼ真ん中に位置する大都市です。長江を河口の上海から1500kmほど遡ったところで、この重慶と上海のちょうど中間あたりに新型コロナウイルスの大規模感染が起きた武漢があります。私は重慶の工場に足かけ3年赴任しています。

讃井 昨年はじめ、新型コロナウイルス感染症が感染拡大した時の様子を教えてください。

長井 1月下旬の春節(旧正月)の前から、武漢で新型コロナウイルスが蔓延し始めたというのは報道で知っていました。とはいえ、重慶では感染者が出たという話もなく、まだ危機感はあまりなくて、私は春節の休暇を利用して日本に一時帰国しました。ところが帰国中、武漢での感染がみるみる広がって、春節が明けても工場は稼働しないようにという通達が来ました。中国に戻る飛行機の便はガラガラで、乗り換えの北京空港はお店が全部閉まっていて真っ暗でした。重慶に着くと、各所で検問をやっていて体温測定するなど、厳戒態勢になっていました。私自身も2週間自宅から出ないよう指示されました。