下着は隠すためのものにあらず

 時代・社会環境は違えども、人間が常に生活の一面として安らぎをもって解放されたいと願う最も重要な場所は閨房(けいぼう:寝室)である。

 そこでは男と女が自身の本質的な見栄も体裁も警戒もない真情が吐露され、互いの裸躰とプライベートパーツが露わになる場でもある。

 寝室ではパートナー対し自己の魅力を主張し、かつ永続すべく、様々な秘められた営みが行われる。

 中世から19世紀半ばにかけてのヨーロッパでは、裸で寝るのが一般的だった。

 裸で寝ることの効能は、カップルの場合、相手の肌と触れ合うことで幸せホルモン、絆ホルモンといわれるオキシトシンが分泌され、裸で寝ることで自然とセックスの回数が増える。

 すると性生活の満足度が高まり、相手に対し愛情や信頼といった絆が強くなる。結果、幸せな気分となり心が癒される、などの利点がある。

 わが国でも上代(飛鳥時代後期~奈良時代)では、寝衣がまだ存在しなかったため常衣を脱いで裸寝、もしくは衣服を着たまま床に「ごろ寝」していた。

 かの小倉百人一首の中にも

「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣片敷(ころもかたしき)独りかも寝む」

(こおろぎが鳴いている、霜の降りるそんな肌寒い夜、寒いばかりか私は、粗末なむしろの上に片袖を敷いて独りぼっちで寝るのだろうか)

 との歌があり「衣片敷」とは『古語辞典』によると「衣の片袖だけを下に敷いてひとり寂しく寝る」とある。

 つまり着ている着物の片方の袖だけを脱いで、それを躰の下に敷き、片方は腕に通したまま、着物に包まって寝ていたのである。