例えば、日本の教科書検定制度のように、国が学校が使うテキストを一言一句チェックするなど、教育内容に深く関与しているケースは国際的に見て非常にまれです。実際には副教材という名の主教材を使って、教科書は義務的に配るだけ(紙の無駄?)ということをしている私立の中学や高校は少なくないですが、多くの公立校ではそうはいきません。
高校で使われる国語の教科書では、検定を通っているいくつかの教科書の選択肢はありますが、例えば文学作品として芥川龍之介の『羅生門』や夏目漱石の『こころ』が定番で出てきます。もちろんどちらもすぐれた文学作品なので教科書で学ぶ作品として文句はないのですが、一方で、「他にも高校生に学んでほしい作品はあるのに」「最初に小説として学ぶ作品としてもっと良いものはある」と考える教師がいても不思議ではありません。なにも『羅生門』のような暗い話や、自殺が一つのテーマになっている『こころ』じゃなくても、もっと高校生の国語教育に相応しい明るい文学を使っても良いのでは、という発想・意見もあるほうが健全だと思います。ただ、教科書検定に落ちて採択されないリスクを考えると、どうしても安心・安全の鉄板小説を使わざるを得ず、結果として皆同じような作品を扱う同じような教科書となります。そして、教師としては、その限られた教科書を使わざるを得ません。
学校の方針、先生の想いによって使う教材や教え方が様々に違う、と状況があり、それを比較検討して学校を選ぶ、という状況こそが、長期的な意味では、日本の国力・経済力を支えるような多様な人材を生むと思うのです。
要するに、教育の規制緩和をして、学校教育の自由度を高めること、即ち、さまざまな教育方針を持つ学校が存在する環境を整えることが必要だと思うのです。そうやって、個性的で、リーダーシップ(始動力)を備えた人材を多数育成することが、遠回りに見えても、実は日本の地力を引き上げたり経済を成長させたりするのに一番の近道なのではないかと思うのです。
そのためには、まずは現在の公教育中心の教育システムを変更し、授業料等は公費で賄いつつも個性的な方針を示す私学を中心に変えていくしかないと思います。少子化はある意味でそのチャンスです。要すれば、できるだけ文科省や教育委員会がそれぞれの学校教育を縛らないこと、真の意味での規制緩和が重要だということです。
さまざまな個性を持つ人材を育てていくことが日本の「成長戦略」
私がアドバイザーをしている軽井沢町は、実は現在、個性的な教育のメッカになりつつあります。例えば「森のようちえん ぴっぴ」は、園舎のない幼稚園です。自然の中で、子どもたちに成功も失敗も体験させながら、逞しい子どもたちに育てていこうという方針で運営されています。
また知人で尊敬する社会起業家・小林りんさんが設立したUWC ISAKジャパンという国際寄宿舎学校も、リーダーシップ教育に注力した、非常の個性的な教育機関として注目を集めています。国際バカロレアの教育機関で、日本の高卒の資格も取れる学校です。
さらに今年から、幼稚園・小・中学校の混在校「軽井沢風越学園」が開校しました。こちらは楽天の創業メンバーの一人の本城慎之介さんが設立した学校で、やはり将来のリーダーを育てようという意欲的な学校です。
最近ではこうした個性的な教育機関で我が子を学ばせるために軽井沢に引っ越してくる人もいるほどです。
教育には「どれが正解」というものはないと思います。どういう子どもにしたいか、どういう人間にしたいか、長じてどういう教育を受けたいか、というのは家庭や個人によって方針や考え方が違います。ただ、確実に言えるのは、さまざまな個性を伸ばした人がどんどん世に出てくることが、これからの日本の地力の強化や成長につながっていくということです。教育の規制緩和を推し進めることは、目の前の政策課題を解決すること以上に、日本の将来を左右することになるのです。菅政権には、特にこの点に注力していただきたいと切に願います。