9月16日、総理大臣として初の会見に臨む菅義偉首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 菅義偉政権がいよいよ始動しました。安倍晋三前首相の突然の辞任により、少々予想外の時期の新政権の誕生となりましたが、各メディアの世論調査を見ても、菅内閣への支持率はかなり高く、国民の期待度の高さを感じます。

 私自身も、菅政権は非常に大胆な改革を断行できる力を持っていると見ており、大いに期待しています。その実行力に期待しての改革の内容について述べる前に、まずはいかに菅政権が過去と比べてユニークな成り立ちの政権であるかを説明してみたいと思います。

「無派閥議員から首相」は初

 菅政権には、これまでの政権には見られない面白い特徴があります。特に菅さん個人の要素から3つ挙げたいと思いますが、それら各特徴こそが、大胆な改革を可能にする要因になっていると考えます。

 ひとつは、菅さんが自民党内で派閥に属さない無派閥議員という点です。一般的に、自民党の総裁選で勝つためには、既存の派閥に入って仲間を増やし、その後、仲間の信任を得てその派閥の長となるか、自分で派閥を立ち上げるなどして総裁選に打って出て勝利する、というのがセオリーです。ところが菅さんは、支えてくれる人やグループはありますが、どの派閥にも属していません。こういう形で総裁になった人は過去にいません(総裁になってから無派閥となった小泉純一郎氏はいますが、菅氏は就任前から無派閥)。

 しかし、無派閥だから党内基盤が弱いのかといえば、決してそうではありません。かつて派閥に属していたこともあり、菅さんほど、個人的な形で色々な派閥の色々な議員と独自に関係を取り結んでいる人も珍しいといえ、「同志」的なつながりを多数お持ちです。今回の組閣や党人事でも、当選同期組などをはじめ、派閥推薦というより、個人的ネットワークをベースとした人材配置が全面に出たと言って良いでしょう。

 しかも、無派閥ということは、逆に言えば「しがらみがない」ということになります。自分の派閥を構えるということは、子分たちにお金を配ったり面倒を見たりということが必要になります。そうなれば、自ら資金獲得活動もしなければなりません。そこで一歩間違えれば、自身が特定の業界や企業との距離が近くなりすぎることもあるでしょうし、派閥に属する議員が利権にタッチするようなこともあるでしょう。要するに、派閥を構えるとさまざまなしがらみと無縁でいるのは難しくなるのです。しかし、無派閥の菅さんにその心配はさほどありません。しがらみがないので、大きな改革を断行しやすくなります。

 また、大きな改革をするには確固たる党内基盤が必要になります。これも通常は派閥の後ろ盾があると強みになるのですが、今回の総裁選で、最大派閥の細田派、麻生派、二階派、さらには竹下派といった主要派閥が雪崩を打つように菅さん支持に回りました。極めて例外的なケースですが、主だった派閥の支援を受けて総裁となった菅さんは、自身は無派閥ですが、上記の個人的ネットワークに加えて、派閥としての各派からの支持も得ており党内基盤はかなり強固と見てよいでしょう。無派閥なのでしがらみがなく、また、無派閥なのに党内基盤が強いということで、大きな改革をやり易い立ち位置にいると言えます。

卓抜した官僚操縦術

 菅政権の特徴のふたつ目は、菅さん自身が、総理就任前から官房長官として、霞が関へのにらみを非常に強く利かせきているということです。安倍政権下で発足した内閣人事局は、各省幹部を事実上決定する任免協議などで官房長官が非常に重要な位置づけになっています。そしてこの成立のために強い影響力を発揮したのが他ならぬ菅官房長官(当時)でした。その官房長官を7年8カ月もの間務める中で、菅さんは人事をテコに、霞が関に対してにらみを利かせてきました。それは相当な迫力です。

 総理になる前から、特定の省のみならず、霞が関全体の人事に対してここまで影響力を持っている方も珍しいでしょう。いわば、番頭さんとして人事権をフルに発揮していた人がそのまま社長になるわけです。これまでは、自分が大臣を務めるなどしてよく知っている省庁に多少の影響力を持っていた方が総理になることはありましたが、総理になる前にかくも広く霞が関全体の人事に影響力を持っていた方は皆無だと思われます。社長(総理)になってからようやく人事権を発揮し始める、というのが通例ですが、菅さんは、いきなり、霞が関に対して強いにらみを利かせることができています。