報道に基づけば、デジタル化について菅さんは「デジタル庁を作り、行政全体のデジタル化を進め、霞が関の縦割りを排する」ということを考えているということです。ということはデジタル庁がデジタル化の元締めになるのでしょう。

 ただし単に省庁を作って公務員を配置しただけでは、これまでのように中途半端なデジタル化で終わってしまう恐れがあります。同じ轍を踏まないためにも、民間から優秀な専門家を、ひとり、ふたりというレベルではなく、チームとして大量に招聘するべきでしょう。また、民間の専門家がいくら優秀でも、行政のお作法が分からないとなかなか他省庁が動いてくれないという実態もあるので、行政の事情が分かっている改革派の役人をチームに付け、他省庁とのコミュニケーションの“通訳”をしてもらう必要もあります。

デジタル庁長官の人選が大きなカギに

 あとは大臣の政治力です。他省庁との間で摩擦が生まれる仕事になるので、政治力がある大臣じゃないと事は進みません。デジタル改革・IT担当大臣となった平井卓也さんは、ITにも強く、経験豊富な政治家ですので大いに期待しています。平井さんの背後に菅さんの絶対的な迫力・覚悟があれば、改革は推進することでしょう。デジタル庁長官が誰になるかが、次なるカギになると思われます。

 行政のデジタル化を進めるに際してのひとつのアイデアですが、持続化給付金で中小企業庁があれだけ問題になったので、あえて中企庁からデジタル化させてみたら面白いのではないでしょうか。あれだけデジタル化のお粗末ぶりを見せつけてくれた中企庁がデジタル化によって様変わりしたとなれば、霞が関全体に一気に横展開できるかも知れません。そうした仕掛けの工夫もぜひ検討していただきたいと思います。

 また同じような文脈で言えば、首都機能の一部移転も本気で考えるべきタイミングだと思います。スリム化のカギとして、地方分権、官民連携、デジタル化の3つを挙げましたが、首都機能移転はこの3つを一気に加速する強烈な起爆剤になります。首都機能移転は、以前にも記事で触れましたが、震災やパンデミックに対するリスク分散にもなります。社会のあり方を大きく変えるインパクトをもたらすものになるこの首都機能移転は、菅さんが考えている改革の方向と極めて親和性が高いと思われます。実行しない手はないと思います。

(参考記事:コロナ危機に大胆な経済対策を!新・首都機能移転論
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59902

 ここまで述べてきたことが進められれば、「小強国家」はかなり実現できると思います。スリム化しながら強靭な国家に生まれ変われます。地方に移譲できるものは移譲し、民間に任せられるものは任せる。ただそうした中で、最後に中央政府の機能として残るものがあります。それは外交です。

 外交だけは地方に移譲したり民間に任せたりすることはできません。もちろん、民間外交・自治体外交はどんどん進めるべきで、私が代表を務める青山社中でも色々とサポートさせて頂いているところです。ただ、条約の締結や首脳外交などは言うまでもなく国家がやらなければならない部分です。ところがこの外交、菅政権の最大の弱点とも言われています。

 安倍さんはかなり外交を得意として諸外国首脳と個人的に良好な関係を結んでいきました。それに対して菅さんは、議員秘書や地方政治家を経験してきた叩き上げの政治家ですから、内政に強い反面、自らが中心となっての外交経験はほとんどありません。私見では、日本人にありがちな相手との「親密欲求」を満たすために、つい譲ったりサービスしてしまったりする不安定さは菅さんには無いと思われるので、交渉という意味での外交力は、基本的には心配していません。ただ、外交にはネットワーク構築力が欠かせないので、その意味では不安は残ります。米国のトランプ大統領や中国の習近平国家主席など、既に10名を超える各国首脳や国際機関のトップなどとの電話会談は行いましたが、各国首脳との個人的な信頼関係を作っていくのはこれからでしょう。

 幸い新内閣の外相には茂木敏充さんが留任という形になったので、安倍外交の継続という点では安定感が感じられます。そして、あまり注目されていませんが、米国人脈が豊富な阿達雅志総理大臣補佐官などもキーパーソンになると思います。そしてもし、菅さんがさらに外交を充実したいと考えるなら、私はいっそのこと病状がある程度改善した場合の安倍さんに外交顧問のような形で外交にタッチしてもらうのも一手ではないかと思っています。安倍さんが築き上げたネットワーク・人脈を使わない手はありません。