(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
文在寅大統領は16日、菅新総理に就任を祝う書簡を送り、「韓日関係をさらに発展させるため共に努力していこう」と述べた。また、丁世均(チョン・セギュン)首相も祝いの書簡で、「未来志向の韓日関係発展のため対話と協力を強化しよう」と述べた。
これに関して大統領府の報道官は、日本政府といつでも向かい合って座って対話し疎通する準備ができており、日本側の積極的な呼応を期待すると付け加えた。
しかし、菅総理は何の反応も示さなかった。これについて朝鮮日報は、「菅総理の外交政策の基調が、『コリア・パッシング(排除)』に向かっているのではないかとの懸念がある」と報じ日本が反応しないことに不満を表明している。
菅総理が就任後初の記者会見で韓国に触れなかった理由
確かに、菅総理は就任後初の記者会見で、米国、中国、ロシアに言及した。北朝鮮についても「拉致問題は前政権同様、最も重大な課題であると語った。しかし、周辺国の中で韓国にだけは言及がなかった。
韓国は、文政権が祝いの書簡を送ったことで、日本との関係改善を働きかけていると言いたいのであろう。しかし、言行不一致が文政権の特徴でもある。文政権が「何を言うか」ではなく「何をするか」で判断しないと政策を誤ることになる。就任祝いの書簡の中できれいごとを述べても、実態が反映されていない。
菅政権がなぜ文在寅政権に失望したかは前回の寄稿で明らかにした。
(参考記事:菅総理を分析した韓国メディア、文政権に改めて失望)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62119
慰安婦問題で、2015年の合意を実現するため、菅官房長官(当時)は元駐日大使の李丙ギ氏(当時。その後、朴槿恵大統領秘書室長)と合意内容の調整に尽力した。しかしこれを一方的に破棄したのが文在寅大統領である。そればかりでなく李丙ギ氏を逮捕し、拘束した。
さらに朝鮮半島出身労働者(以下「元徴用工」)問題では、大法院の判決を誘導しておきながら、その判断は尊重しなければならないとして、日本企業の資産の現金化に進んでいる。
こうした問題について文在寅大統領が態度を改めた兆候はない。それではいくら韓国側の対話の呼びかけに応じても成果はないであろう。
日韓関係を悪くした元凶は安倍前総理でなく、文在寅大統領本人である。「韓国政府の行動を改めた時に初めて日韓関係の改善ができる」ということを文在寅氏がしっかり認識し、実際に行動に結びつけなくては日韓関係は前進しないのである。