(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
日韓関係は、安倍晋三首相と文在寅大統領の政治姿勢の対立によって、「史上最悪」な状況に至らしめたとの指摘がなされている。そして、一方の安倍首相は、8月28日に辞任の意向を表明し、自民党は後継総裁選に動き出した。
一方韓国では29日、与党・共に民主党の代表選挙が行われ、特派員として日本勤務の経験がある李洛淵(イ・ナギョン)元国務総理が後継の代表に選出された。李氏は与党の代表になったことで、2年後の大統領選挙の有力候補になる。
日韓両国において、こうした新しい人事の動きが日韓関係にどんな影響をもたらすのか関心と期待が芽生えている。しかし、現実を見れば関係改善は容易なことではなく、それを望むのであれば、徴用工問題で韓国による資産売却が自制されることが最低条件になるだろう。
こうした新しい動きを踏まえ、今後の日韓関係を展望してみよう。
韓国の「安倍首相が日本で嫌韓感情を煽ってきた」との見方は正しくない
韓国では、「日本での嫌韓感情の原点には安倍首相の政治姿勢がある」との見方が強い。
安倍首相は、韓国大法院が日本企業に元朝鮮半島出身者への賠償を命じる判決を巡り、対韓強硬路線を主導、戦略物資の韓国への輸出管理の厳格化措置を導入し、日本企業の資産を現金化すれば、報復措置をとると圧力をかけているとして、韓国では「安倍首相が日韓関係悪化の元凶だ」との見方が半ば定着している。
G20首脳会議出席のため、文在寅大統領が訪日した際には、主要国首脳の中で文大統領とだけは首脳会談の機会を持たなかった。
8月29日の韓国・中央日報のコラムの表現を借りれば、日本は「米国との同盟をさらに強化し」、「日本の再武装を事実上実現させ」た。憲法9条の改正は実現しなかったが、「『日本と密接な関係の他国に武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされて明白な危険がある場合』に武力を使用できる」よう「憲法9条の解釈変更」をした。「安倍首相のこうした保守の本性はわが国の利害と衝突」する。
このように「安倍首相は実際、わが国には最悪の首相」(同コラム)だったとの見方をする韓国人は多い。こうした世論を受け、韓国のメディアには、その安倍首相が辞任したのを機に、日韓関係の雰囲気を変えることはできないだろうか、そのための努力をするべきであるとの期待感がにじみ出ている。
韓国政府の方はどうか。青瓦台の姜珉碩(カン・ミンソク)報道官は「わが政府は新しく選出される日本の首相及び新内閣とも韓日友好協力関係増進のために引き続き協力していく」と述べた。こうした発言は、外国に新政権ができた時に通常述べるコメントであり、それは必ずしも韓国政府の分析に基づく対処方針とは言い切れまい。