次の問題は、東京オリンピック・パラリンピックである。ロンドンでは5月に市長選挙が行われるが、カーン市長(労働党)と対抗馬のベイリー候補(保守党)は、東京開催中止の場合、ロンドンで代替開催する用意があると表明した。
ロンドンは2012年五輪の開催地であり、私も都知事のときに、東京開催の参考にするために視察したことがある。競技施設も整っており、また様々なインフラも整備されているが、選手村は民間のマンションに改装されているし、メインスタジアムなど規模を縮小した施設もある。
したがって、あと数カ月の準備で代替開催というのは無理がある。要は、ロンドン代替案が出るほど、東京の「危険性」が世界に拡散されているということである。
とりわけ、クルーズ船での感染者が600人を超え、海外から「ウイルス培養シャーレ」と揶揄されるような状態が、いかに日本のイメージダウンにつながったかということである。
岩田健太郎氏は新型インフルでも活躍
その点に関して、クルーズ船内に入った神戸大学の岩田健太郎教授の告発動画が大きな反響を呼んだ。私は、岩田をよく知っている。新型インフルエンザのときに、厚労大臣として対応に当たった私に彼が貴重なアドバイスを与えてくれたおかげで、正しい判断と適切な措置ができたのである。
厚労大臣の私は、日々、役人のサボタージュや医系技官や薬系技官の嘘に悩まされていた。幸いに、東大で教鞭をとっている時代に医学部の学生を相手に授業をしていたため、多数の教え子が医療関係者におり、そのネットワークを活用し、正確な情報を得ることができた。
実は、政府の新型インフルエンザ対策本部には専門家諮問委員会が設置されたが、首相官邸はメンバーを教授以上の肩書きの者に限定した。そのため、若手の専門家や既存の医療エスタブリッシュメントに反対する者の意見は遮断されてしまった。
私は、東大医学部の教え子たちに依頼して、セカンドオピニオンを取り入れる必要があると判断し、神戸の現場の病院を指揮する岩田健太郎、国立感染症研究所の森兼啓太、東大医学部感染症内科の畠山修司、自治医科大学感染症学部門の森澤雄司の4人に集まってもらった。彼らは、常日頃から既成の権威に対して堂々と反論してきた勇気ある専門家であった。
これを厚労大臣直属のアドバイザリー・ボードとして設置し、私の大臣室に集まってもらって意見を聞いたのである。
岩田は、今回のクルーズ船動画に見られるように、問題点を率直に述べるタイプの研究者であり、新型インフルエンザ治療のときも、現場体験から、「軽症であれば、インフルエンザは自然に治る。こちらに入れ込み、心筋梗塞などの命に関わる病気の治療をおざなりにするのは本末転倒である」と強調したのである。