では、どの年齢時の報酬水準をもとに判断すればよいのでしょうか。

『会社四季報』などをベースにしている2018年に東洋経済が発表した40歳モデル年収ランキングを参照すればいいでしょう。40代こそ一番報酬格差がつく年齢層でもあるので、明暗がハッキリ分かります。

【図2】全国「40歳年収が高い500社」ランキング TOP20(出典:東洋経済オンライン 『最新!全国「40歳年収が高い500社」ランキング』https://toyokeizai.net/articles/-/234145?page=2

事業のライフサイクルと自分の資質がズレたときの悲劇

 そうは言っても目先の判断で転職するのは危険です。「大企業からベンチャーに転職したら、人生がアドベンチャーになった」なんていう人は、実は大量に存在します。かつて在籍していた大企業の卒業生会、同期会、同窓会、趣味の会からもすっと姿を消してしまうので、周囲の人はなかなか気づかないかもしれませんが、転職失敗組と感じている人たちは、元同僚たちに対して恥ずかしくて引っ込んでしまうのです。そういう方を仕事柄多くみてきました。

 もちろん、逆に大企業からベンチャーに移って成功している人もいます。ではその差は何なのでしょうか。成功組は、「導入」「成長」「安定」「衰退・再展開」という事業のライフスタイルのどのフェーズが自分に合っているかを知っていて、自分にマッチしたフェーズの企業や業界に転職をするので成功しているのです。各フェーズの特徴を解説します。

<導入期>
 限られたお金と人手を貴重な資源としてビジネスを成功させるため、様々なチャレンジをするフェーズです。まだ世間で受け入れられているビジネスではありません。新しいアイディアを紡ぎあげるだけでなく、信頼を得るために品質のバラツキがないようにする気配りも大事です。このフェーズではワンマンか同志が集まり組成されます。ビジョンや構想力がある社長とその応援団が集まるFacebookのようなスタイルが今風でしょう。「今、ここにいる仲間で未来を夢見てチャレンジしよう」という仲間意識が高い人が集まります。そしてある時、市場の摑み方が分かり、一発当てると次のフェーズに向かいます。

<成長期>
 成長期の初期段階の社内は躍動感に沸き、活気づきます。前向きな取り組みに果敢にチャレンジします。導入期や成長期の失敗・成功の経験は小さな組織では共有が速く、成長の確度も高まります。「売り上げが全てを癒す」状況となり、売り上げも規模も急成長していきます。経営企画、マーケティング、人事など、組織の機能が分かれていき、やがて安定期を迎えます。

<安定期>
 儲かるビジネスモデルが確立し、計画的に仕組みと管理で組織を動かしていくようになります。伸びが落ちてくるので差別化・ブランディング、効率化を行うなどして、利益とビジネスモデルの寿命を保ちます。

<衰退・再展開期>
 市場の変化により、ビジネスモデルが終焉を迎える段階です。一部のリーダー企業はキャッシュを生み続けることができますが、それ以外の企業は、撤退するか、イノベーションにより新たな価値の創造を行うか、どちらかになります。

 それぞれのフェーズで求められる人材の資質は異なります。

 仕組み化しルールを決め、守らせる安定期に資質がフィットした人だったら、成長期の企業にはマッチしません。売り上げが全てを癒す、勢いはあるけれど先々までは安定的に読めない、途中で綻びが出たら何とか状況対応しながら走り続ける、といった状態ではおそらく不安でストレスしか感じないことでしょう。安定期向きの人が成長期の企業に転職すると、フラットな社風の中に、階層を作って指揮命令系統で組織を動かそうとするなどして周りから浮いてしまい、居場所を失ったりしています。それくらい、事業のフェーズと個人の資質のミスマッチは不幸な結果しか生まないのです。

 サイバーエージェントの取締役の曽山哲人さんいわく、サイバーエージェントでは新規事業の提案を社内で集め、藤田社長が最終的に承認したとしても、事業の立ち上げに関しては「その事業の立ち上げにむいている」視点で人材をアサインします。提案者が担う時もあればそうでない時もあります。事業アイディアを生み出すことと、成長させる人材は異なることを多くの失敗と成功から学んできたからだそうです。

 もう一つ、例を出しましょう。私の友人で「首切り屋」と呼ばれる人事部長がいます。彼の転職先では必ず3年以内にリストラが始まると言われているので名前は出せません。彼は衰退・再展開期の企業を得意としていて、必然的に「リストラ担当」となりますが、いつも一発で成功させています。つまり、去る人、残る人にとって一番いい条件を提示し、事業も再展開への道筋を付け、再浮上が見えた段階で次の組織に移っていきます。60歳近くになりますが、今でもあちこちから引っぱりだこです。

「誰もが嫌がる仕事だけど、自分には向いていて得意」という業務分野があって、それが未来永劫なくならないジャンルであれば、ある意味最強のビジネスパーソンになれます。事業のライフサイクルの中で、自分が向いている時期でブランディングが出来れば、非常に「おいしい」状態になります。次回以降もその要諦について解説していきます。