負ければ負けるほどニッケルが手に入らなくなっていく反面、負ければ負けるほどますますニッケルが必要になっていく。しかし、必要でも供給できない。
ニッケル不足は兵器生産の不足や品質低下も生むため、日本軍を弱体化させる。それがまた負ける原因になるという悪循環。
精神力でニッケル資源を生み出す
ついに追い詰められ、地質学的には存在しているニッケルを含む石を、あり得ないほど質の悪い鉱石として採掘し、無理やり精錬する試みが強化されていった。全くニッケルがないはずの日本に、なぜか存在するニッケル鉱山の跡は、すべて戦時中の無理の名残である。
鉱石というかニッケルをかすかに含む石ころを、国家の非常時に際し、精神力でニッケル資源にしようとしたのだ。それをニッケル資源だと言ったら、無駄にするほど資源がありすぎるロシアに笑われそうである。
有名なのは、京都府の大江山鉱山である。ニッケルは古い地質の地域に産出することが多いが、日本は地質的に新しい場所がほとんどで、見るからにニッケルのなさそうな地質である。
例外的に大江山は日本で最も古い5億年前のニッケルを含む岩石があり、なけなしのニッケルの採掘が始まった。
緑色の泥のようなニッケル鉱石を微量に含む大江山の鉱石は、通常では経済的価値がないようなひどい鉱石である。しかし、ここは「皇国の荒廃はこの鉱石にあり」と、大和魂で頑張った。
結果、何とか精錬技術を確立し、ニッケルルッベと呼ばれるニッケルを含む鉄が作れるようになった。
現在、選鉱により品位を上げやすい硫化鉱を除いて、使用されているニッケルの鉱石の品位は最低でも1.5%程度である。一方、大江山のニッケル鉱石の品位は0.5%程度であった。
それでもましな方で、大江山鉱山より規模が大きい大屋鉱山では品位は0.2~0.3%程度であった。
普通はゴミ扱いの鉱石も、大日本帝国にとっては大変貴重だった。ノリリスクのニッケル入り汚染土があれば泣いて喜んだだろう。