今年もまた花粉症の季節である。うっとうしいこと限りない。目も鼻もかゆい。のどもかゆい。耐えがたい苦しさである。花といえばサクラというのが日本人の常識であろうが、花粉症患者にとっては、花といえばスギの花とその花粉である。花粉症患者にとって、まったくもって春は憂鬱な季節だ。
この時期になると毎年思い出すのは、19世紀ロシアの詩人プーシキンの詩の一節だ。それは、「秋(断章)」という詩の第2連である。詩人は、秋の素晴らしさを語りながら、春については嫌悪感をあからさまに示している。
「いまがわたしの季節 - わたしは春をこのまない。雪解けに心はふさぐ。むかつく臭い、深いぬかるみ - 春にわたしは病む。血が駆けめぐり 心も思いもおしつけられる。むしろわたしはきびしい冬を 冬の雪をなつかしむ。あなたが月のひかりのもとに いとしい人とただふたりで 思いのままに軽いそりを飛ばせてゆくとき あなたの友はてんの毛皮に身をつつみ 若い頬をほてらせて 燃えつつふるえつつ あなたの手を握るだろう。」
(出所:『プーシキン詩集』、金子幸彦訳、岩波文庫)
詩人は花粉症に苦しんでいるわけではないが、「わたしは春をこのまない」と明言している。春は必ずしも万人にとってすばらしい季節というわけではない。
日本では詩人のプーシキンはそれほど有名ではないが、詩人の名前を冠した美術館は比較的知られているかもしれない。それはモスクワにあるプーシキン美術館のことだ。プーシキン美術館は、ロシアではサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館についで規模の大きな美術館だ。私も訪れたことがあるが、フランス印象派のコレクションでは世界有数の存在である。ちょうど今年(2018年)4月から東京都美術館で『プーシキン美術館展-旅するフランス風景画』という美術展が開催されるので、フランス絵画が好きな人は足を運んでみてはいかがだろうか。