医師が治療を選ぶときに考慮する“生存率”は、生きているかどうかだけで計算されます。“ただ息をしているだけ”という状態であっても生存とカウントされ、生存率が延びるのは良い治療と判断されるのですが、大いなる違和感を覚えています」と唐澤さん。
また、過去のエビデンスをまとめて診療ガイドラインに示される標準治療はすべての患者にとって適切な治療ではない、あくまでも目安なのだと強く感じたともいいます。「治療選択のときにはもちろん標準治療を参考にするのですが、実際には患者さんは一人一人が人生の目標も治療の効果も副作用の出方も異なります。
にもかかわらず、医師の側では患者さんが、例えば“手がしびれる抗がん剤は使いたくない”“この年齢で手術には耐えられないと思う”というとカルテに“治療拒否”と書くことがあります。標準に合わない患者さんの側がダメだというように判定するのです」。
診療ガイドラインで推奨する治療法がうまくいかない、あるいはその治療は自分に合わないと考える患者さんは実際には少なくなく、「そういう患者さんに合わせた治療ができること、また患者さんの自覚症状に合わせて治療を変えられることこそが専門医の腕のほんとうの見せ所だと思います」と唐澤さんは言い切ります。
一方で、患者さんの「人生の価値」を医療者が聞き出し、それによって治療方針を決めるのが難しいことも認めています。「ふだんの診療時間は短く、医療者も忙しくてじっくり話し合う時間が取れないし、がんという進行する病気の診療においては治療方針の決定を長くは延ばせません。
そこで、患者さんの“人生の質”を効率的に評価する指標を作りたいと考え始め、今、医療の質や患者満足度の評価を研究する先生方に声をかけたところです」。
これまで続けてきた診療や放射線療法の研究を続けていくこと、そして、今回患者として学んだことを臨床の現場に生かすこと、これが自身の「人生の質」であり「人生の価値」だと再認識したと話す唐澤さん。