唐澤さんは術後の抗がん剤がどのくらい必要かを調べるために手術で採った組織を調べる遺伝子検査のOncotype DXも受けています。この検査は健康医療保険が使えず、全額自費です。「遺伝性乳がんの検査と合わせて相当お金がかかりましたが、検査を受けたおかげで、抗がん剤を再開する決心がつきました。今後の抗がん剤については腫瘍内科医に相談しようと思っています」。

 乳房温存手術の場合、乳房内に残っている可能性がある、目には見えない微小ながん細胞を根絶するため、必ず全乳房照射を組み合わせて行います。放射線療法は唐澤さんの専門であり、自らが治療計画を立てて勤務先で施行しました。1回2.7Gyの寡分割照射とスケジュールを決め、右乳房に16回、腫瘍床にさらに3回照射しました。

「スタッフには気を遣ってもらい、診療開始前か一般の患者さんの終了後に照射してもらいました。期間中に国内出張が何回かありましたが、朝早く照射して東京駅に向かったり、羽田からタクシーで病院へ急いだりして何とか仕事と治療を両立させながら乗り切りました。一過性の放射線皮膚炎はありましたが、対処は専門ですので慣れたものです。

 日頃、放射線療法は負担が少ない治療だと患者さんにお話ししていますが、それを実体験できたのは貴重だったと思っています」。

患者の「人生の価値」が治療を選び、変えていくときのベース

 患者にとって、治療を選択する際、何を基準にすればいいのかとても迷うことがあります。そのときに、Quality of Life(QOL)が大事だとよくいわれます。日本語では「生活の質」と訳されることが多いようですが、唐澤さんはがんを経験し、「私はこれを“人生の質”と訳すべきだと感じます」と語ります。

「術前化学療法で副作用が強く出て、動けなくなったり入院したりしている間、“治療で生存率が数%上がったとしても、自分が大事にしている診療や学務、研究や人間関係が維持できなければ生きている価値がない”と思いました。私にとって余命を延ばすこと自体は治療選択の基準にはなり得ないのです。