そして、唐澤さんは最後の術前化学療法の薬剤の投与から4週間後に乳房温存手術を受けました。術中の切除断端にがん細胞が見つかったため追加切除が行われ、センチネルリンパ節生検で1ミリ以下のリンパ節転移も判明しました。

「これは乳がんのタイプが抗がん剤が必要なルミナルBとわかったことに続く2つ目の誤算でした。結構大きく切除したので見た目が変わり、整容性が落ちたのは残念でしたが、それはしかたないことと受け入れています」。

 手術を受けて困ったことは他にもありました。それは縫合部の傷痕です。術後2か月以上経った今でも縫合部の痛みはあり、シートベルトが触れたときなどにズキッと痛みます。「縫った吸収性の糸の吸収が遅くて痛いという感じで、これも私が担当させていただいた多くの乳がん患者さんより症状が強いようです」と唐澤さんは冷静に自分の状態を分析します。

 縫合部の傷痕に下着が触ると痛むため、乳房手術患者用や乳房照射患者用の下着を購入しましたが、「痛くて着けられませんでした。それよりずっと安価な縫い目のない下着をネットで探して入手し、ようやく調子よく使っています」とのこと。しかし、この悩みも唐澤さんにとってホルモン剤による体の不調と比べると取るに足らない症状なのだそうです。

 乳がんの術後補助療法として、唐澤さんは術後2週間からホルモン療法を開始しました。ところが、ホルモン剤(アロマターゼ阻害薬のレトロゾール)を飲み始めて数日後から疲労感が出てきました。「急に歳をとって体の自由がきかなくなった感じです。日中は普通に診療していますが、夕方教授室に戻ると倒れこむような状態です。

 これまでなら家で夕食を食べて夜中までもう一仕事できたところが、夕食後はもう寝るしかなくなって。依頼原稿などの仕事はどんどん溜まり、今までは原則的に受けていた論文の査読などは断るようになり、溜まると膨大になるメールの返信も滞るようになりました」。

 この疲労感には1か月くらいで少し慣れましたが、それでも今までのような無理はきかず、少しでもがんばりすぎると疲労発作のように疲れて動けなくなります。「薬に弱い体質ではホルモン剤も副作用が軽い治療ではありませんでした」と唐澤さんは話します。