日本に求められるのは原油の中東依存からの脱却
シェール企業とサウジアラビア政府にとって、危機を回避するシナリオは原油価格の大幅回復である。だが、供給過剰による在庫の積み上がりに加え、アジアの需要が細っているという「ワンツーパンチ」が相場に下押し圧力をかけている(10月17日付ブルームバーグ)。
中国国家統計局は10月19日、今年の第3四半期のGDPが前年比6.9%増加したと発表した。リーマン・ショック直後の2009年第1四半期以来6年半ぶりに7%を下回ったことになる。サービス部門の下支えにより成長率は市場予想(6.8%)を上回ったが、昨年GDPに占める割合が46%だった固定資産投資が低迷する現状では、中国の原油輸入が今後増加することはないだろう。
中国の国有鉄鋼商社が10月20日社債の利払いが履行できなくなるなど、社債市場の不調も顕在化している。不良債権の拡大も止まらないため、リーマン・ショック後に「危険すぎる」として国際的に凍結されている証券化商品を活用すべきとの議論が強まっており(10月15日付ブルームバーグ)、金融危機発生の確率はますます高まっている。
ロシア中央銀行総裁は10月13日、「原油価格が1バレル=50ドルの状態が15年間続いてもそれは最悪の悪夢ではない」との見方を示した。
原油価格が長期低迷することで、シェール企業の大量破綻による金融市場の混乱ばかりか、サウジアラビアにおける「アラブの春」勃発を心配しなければならないという段階に入ってきたと言えよう。
日本では「中東危機=ホルムズ海峡封鎖」という図式が定着している。しかしサウジアラビアに一朝事があれば、原油輸入の3割超を依存している日本で、まさに「油断」に描かれた事態が現実化するのではないだろうか(「油断」は40年前に通産官僚だった堺屋太一氏が執筆した小説)。
「油断」では中東から石油輸入が制限されると、直ちに日本の経済システムが麻痺し、多数の犠牲者が発生する。2度にわたる石油危機を経て政府が原油の備蓄を大幅に充実させた現在、このような事態が生じる可能性は少ないが、「想定外」の事態発生で心理面で国内全体がパニックとなる可能性が高い。
欧米の制裁解除後をにらみ、日本ではイランでの油田開発への参入に期待が高まっている。しかし日本も米国にならい、そろそろ本気になって原油の中東依存から脱却する時期に来ているのではないだろうか。