トランプ氏のクレイジーさを思い知ったであろう習近平氏(2019年6月19日大阪サミットで、写真:ロイター/アフロ)

 米国のジョー・バイデン米大統領は2024年5月4日に公開されたタイム誌とのインタビューで、中国が台湾に侵攻した場合、台湾防衛のため「軍事力行使を排除しない」と述べた。

 バイデン氏は過去にも再三、再四にわたって同様の考えを示してきた。

 一連のバイデン氏の発言に関し、米政権幹部が、台湾有事の対応で歴代政権がとる「戦略的曖昧さ」を含む台湾政策に「変更はない」と説明するのが常態化していた。

 一方、ドナルド・トランプ前大統領は大統領選前の2024年10月18日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで次のように述べている。

「もし中国が台湾に侵攻するなら、申し訳ないが、150~200%の関税を課すつもりだ」

 さらに、中国による台湾包囲に対して軍事力を使用するかとの質問に対しては、「そのような事態にはならない」と述べたものの、「軍事力行使を排除しない」とは述べなかった。

 2024年10月30日、中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は定例会見で、米政府が常に「米国第一主義」政策を進めてきたことを考慮すると、米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利した場合、トランプ氏は台湾を「見捨てる」可能性があるとの見方を示唆した。

 上記の朱報道官の発言は、10月18日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道に基づいたものと見られる。

 しかし、トランプ氏は「軍事力を使用しない」とは言っていない。「使用する必要はない」と言っているのである。

 次が原文と筆者の翻訳である。

(Trump, asked if he would use military force against a blockade on Taiwan by China, said it would not come to that because Chinese President Xi Jinping respected him.)

("I had a very strong relationship with him," Trump said. "I wouldn't have to(use military force), because he respects me and he knows I'm f—crazy," he said in the interview.)

「中国による台湾に対する海上封鎖に対して軍事力を使用するかとの質問に対して、トランプ氏は、習近平国家主席は自分に敬意を抱いており、そのような事態にはならないと述べた」

「そして、『私は彼と非常に強い関係を築いていた』とトランプ氏は述べた。トランプ氏は『彼は私を尊敬しており、私が非常にクレイジーであることも知っているので、私が(軍事力を使う)必要はないだろう』と述べた」

 以上のように、トランプ氏が台湾を「見捨てる」かもしれないという同報道官の発言は、台湾国民に動揺を与えようとする情報工作であることは間違いない。

 付言するが、上記WSJのインタビューの中で、トランプ氏は、自分がクレイジーであることを示すために次のように述べている。

「私が大統領職であったなら、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻を開始しなかったであろう」

「なぜなら、『私はプーチン大統領に、もしあなたがウクライナを攻撃するなら、私はモスクワのど真ん中を攻撃するつもりだ』と警告するからである」(筆者翻訳)。

 これが、トランプ氏の「力による平和」の真骨頂である。

「力による平和」とは、米国の強靭な軍事力により敵対国の挑戦を阻止し、無謀な戦争の選択を回避して平和を実現するということである。

「力による平和」の詳細は、直近の拙稿「トランプ大統領就任でウクライナ戦争終結の可能性が強まるわけ」(2024.11.11)を参照されたい。

 さて、中国の習近平国家主席は、総書記に就任以来台湾統一に並々ならぬ意欲を示している。

 習近平氏は中国共産党総書記として3期目入りを決めた2022年10月の党大会で台湾統一を目標に掲げ「武力行使の放棄は約束しない」と明言した。

 また、2027年に4期目を目指す習近平主席にとっては、台湾統一という偉業達成が絶対条件となっているという見方がある。

 そして、台湾統一2027年説が流布されている。

 その根拠の一つは、2023年2月2日、米中央情報局(CIA)のウィリアム・ジョセフ・バーンズ長官が、ワシントンでの講演で、米側のインテリジェンスとして、習近平国家主席が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」との見方を示していることである(出典:朝日新聞デジタル2023年2月4日)。

 ところで、2024年5月20日、台湾で民進党の頼清徳氏が新しい総統に就任した。

 台湾と中国は、互いに隷属しない主権国家であるという「新二国論」ともいえる主張を唱える頼清徳氏を、中国は「台湾独立派」として警戒しており、2024年5月の政権発足直後から中国軍が台湾周辺での軍事演習を行うなど軍事的な圧力を強め牽制している。

 意図せぬ偶発的な衝突が、深刻な武力衝突を引き起こす可能性なども指摘されている。

 そこで、トランプ氏は、頼清徳総統が独立宣言をしないようしっかりコントロールすると共に、習近平主席に「もしあなたが台湾を攻撃するなら、私は北京のど真ん中を攻撃するつもりだ」と警告を与えさえすれば、台湾有事は起こらないであろう。

 万一、台湾海峡危機が発生した場合、筆者は米国は必ず台湾に軍事介入すると見ている。

 以下、初めに米国の台湾防衛コミットメントの歴史について述べ、次に台湾海峡危機が発生した場合、米国が軍事介入するとする筆者の論拠について述べる。