米国のトランプ大統領(写真:Pool/ABACA/共同通信イメージズ)
[ロンドン発]第2次トランプ米政権の国家防衛戦略(NDS)について、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官は筆者の取材に「この内容は“荒っぽく”言えばドナルド・トランプ大統領とその忠実な側近(注:第1次政権のマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ジェームズ・マティス国防長官、ジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官ら“一言居士”が不在)の考えが、他の政権では行われる大学やシンクタンクなどの意見も反映させた『練られた構想』ではなくトランプ大統領の意向を直接反映したものと言えます」と指摘した。
高市「台湾有事」発言後に発表された米新戦略での“台湾スルー”、はしご外しではない
――台湾に関する記載がNDSから消えました。この意味をどう見ておられますか。台湾有事発言で中国の嫌がらせを受けた日本の高市早苗首相はトランプ大統領にはしごを外されたのですか。
香田洋二氏(以下、香田) 本質としてのトランプ政権の最優先政策は経済であり、14億人の巨大市場とレアアースなどの経済面で中国に首根っこを押さえられているトランプ政権としては、民主主義とか自由あるいは人権といった理念案件としての台湾事案に言及したとしても儲けにもならないため、台湾への言及を回避したと言えます。
同時に、これは「台湾」を見捨てるとか「軽視」をするものではなく、トランプ政権の当面の目標である「米中並立」後に必ずやってくる、米中が「覇」を競う事態に備えた有利な環境をつくり、最終的には対中勝利を獲得するためには台湾が不可欠の要素であるとみていることも間違いありません。
この点に関しては、トランプ大統領だけでなく、米国民の多くが、最後には中国と雌雄を決する時が来ると思っていることは確実です。
香田洋二氏(筆者撮影)
ただ、トランプ大統領の直感として、今「台湾」に言及することは現在、最優先の米中経済協調政策に反するために「だんまり」を決め込んだと言えます。
同時に、トランプ大統領の戦略の解せないところは、そうであるとすれば、現在の米中経済協調は、その結果として中国の国力を強めるため、長期的には米国の国家目標や国益(有利な台中環境の醸成や最終的な対中勝利)に反することも確実ですが、この点はトランプ大統領の政戦略の矛盾です。
この矛盾が怖いところであり、仮に、米中協調の最中に中国の習近平国家主席が台湾侵攻を試みた場合、トランプ大統領に逡巡があるとすれば非常に怖いところです。ジョン・F・ケネディ大統領のキューバ危機の際の信念を持った毅然とした対応を模範としてもらいたいものです。
高市首相の台湾有事関連国会答弁に関するトランプ政権の対応ですが、経済実利主義者のトランプ大統領としても、日本の頭越しの経済だけの米中併存・共栄がもたらす安全保障面でのマイナス、特に長期的観点からの台湾の価値は十分に承知していると考えられますので、今次の高市発言への沈黙も、経済の観点からの「だんまり戦術」の一環であり、高市首相への「はしご外し」という見方は当たらないと考えます。
特に、一時注目された米紙ウォールストリート・ジャーナルの「日本はあまり騒ぐな、対中関係で波風を立てるな」という趣旨の記事は、中国系記者の意図的かつ強いバイアスのかかった記事であり、ワシントンでもほとんど話題にもなっていません。