インフレは本当に過渡的なものなのか
第一に、現在の海外要因によるインフレは本当に過渡的なのであろうか。かつての低インフレは、グローバル化が加速し、世界経済の供給力が速いスピードで拡大する中で実現したものだ。
今日、グローバル化の様相は明らかに変わっている。今や、世界経済は統合されるというよりは分断化され、さらに米国はより自給自足化を目指そうとしている。最適なグローバル・サプライチェーンを実現し、企業収益を最大化させるというビジネス・モデルにおいて、制約条件は厳しくなった。
そのように、グローバルな供給力の拡大スピードはスローダウンしそうだが、新興国経済の所得水準はこれまでのグローバル化の過程で飛躍的に高まっており、需給環境という面からすれば、タイトな状況が続くかもしれない。日本経済の場合、その下で、海外から来るインフレ圧力というのは、本当に以前のように抑制されたものになっていくだろうか。
第二の疑問は、需給ギャップは資本の稼働も考えているので、経済の構造変化を速く進めなくてはいけない経済において、過去からの延長で考えた需給ギャップ均衡の状態を実現することが本当に望ましいのかという点である。
経済分析を行う場合、どうしても一定期間の経済構造が安定していると仮定しなくてはいけない。しかし、例えばこれまでの日本経済のように、グローバル化の過程で新興国経済に対する優位性を失った産業分野が広がっている場合、既存の資本設備をフル稼働させたのでは、潜在成長率が下がってしまうかもしれない。
優位性を失った分野がそのまま再び優位性を取り戻すことは考えにくい。仮に需要刺激を続け需給ギャップが縮まったとしても、その結果、長期的には持続が難しい産業分野が一部温存されてしまう。
2%インフレは、その下で潜在成長率が最適になると考えるからこそ目標となっているはずだが、その実現の手前で、高インフレを我慢しつつ潜在成長率を下げてしまっては、何のための基調的なインフレ率の実現かということにもなる。
もっとも、日本経済にまだ残っている優位性を失った産業分野において、グローバル経済の分断で新興国との競争が和らぐようなことがあるとすれば、それは構造調整に割ける時間を稼いでくれるものにはなるのだろう。