労働力不足で「基調的なインフレ率2%」を超えてしまうリスクも
第三に、人口減少で労働力が不足し、工場やオフィスがフル稼働できない状況においては、最大雇用が実現できても、過去からの延長で資本の稼働も考慮に入れる需給ギャップは完全になくならない可能性もある。
そうした状況で、さらに需要刺激を続け、過去からの延長で考えた需給ギャップが問題なしという状況が実現したとしても、そこでは労働市場は過熱しているはずだ。
その下で、第一の海外要因による2%を上回るインフレを出発点に物価と賃金の上昇が相互に循環する環境が整ってしまえば、「基調的なインフレ率」は、2%を超えてしまうかもしれない。
以上のような点を考えると、少なくとも今後の日本経済において、「基調的にインフレ率が2%になった時に、本当にマクロ経済が最適な状況になるのだろうか」と考えさせられてしまう。
9月の本欄で指摘したが、フィリップ曲線は、もともとは失業率と賃金上昇率の関係として見つけられたものだ。経済活動の成果である付加価値を、労働を供給する家計と、資本の所有者である企業・株主との間でどう分配するかは、資本主義の下で長く議論されてきた問題だ。今日の日本では、人口減少もあって、いかにフェアに経済活動の果実を労働力に帰属させるかがますます重要になっている。
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そう考えると、実体経済の状況を判断するに当たっては、本来のフィリップス曲線に立ち戻って、失業率と賃金上昇率の関係をもっと重視することも一案ではないだろうか。
失業率についても、以前から言われているように、その均衡値としての自然失業率という概念があり、それを推し量るのが難しいことは、経済規模の潜在的な大きさの場合と同じである。
しかし、労働市場の観察の場合には、経済統計としても、また行政によるヒアリングにおいても、国民所得統計や消費者物価よりもミクロの現場に分け入って状況を把握することが可能である。これからのインフレの時代に、構造変化を続けるマクロ経済の安定を実現していく上では、労働需給にもっとアクセントを置いた金融・財政政策の運営がこれまで以上に求められるのではないだろうか。