それは実体経済の状況とインフレ率の関係が変化しているからだと考えられる。かつての低インフレの状況で、揺るぎない先進国共通のインフレ目標だった2%という水準は、グローバルにインフレ経済になった下で、短期的にはどうも扱いにくいものになっているようだ。

コロナ禍を境に大きく変わった経済

 実体経済の状況とインフレ率の関係は、経済学の世界ではしばしばフィリップス曲線として整理される。

 これは、今日では需給ギャップとインフレ率の関係を示すもので、その需給ギャップとは、マクロ経済の実際の経済規模とその実力がフルに発揮された場合の経済規模との差のことだ。需給ギャップがマイナス方向に開けば、インフレ率は低下するし、逆なら上昇する。そういう関係として理解されている。

 ところが、コロナ禍後に特に顕著だが、この関係が変わってきている。需給ギャップの水準があまり変わらなくても高いインフレとなった。日本にしても、かつての懸命な超金融緩和だけで今日のようなインフレになったわけではない。原油などの一次産品価格の上昇と円安で、長いこと達成できなかった2%の目標を上回るインフレがあっさり実現してしまったのである。

 かつて「デフレ」と呼ばれていた状況が、超金融緩和そのものにより是正されたのであれば、実体経済の好転とインフレ化が共存したはずだ。しかし実際は、実体経済の好転感がさほど強くない中で、インフレ率がかなり上昇した。結局、限界までの金融緩和だった異次元緩和だけでは、「デフレ」からの脱却はできなかったのである。

 そういう展開だったので、もっと実体経済が元気になっていたら、インフレ率の上昇に応じて政策金利も上昇したのだろうが、実際にはそうはならなかった。その理由付けが、日本銀行や政府が繰り返してきたように、「基調的なインフレ率が2%になったとは言えない」ということだったのである。

 しかし、そもそもインフレ目標のある金融政策というのは目の前のインフレ率に反応するものだったのではないか。「基調的なインフレ率」というのはインフレ目標を持つ金融政策に関して言えば新しい要素と言える。そういう新たな要素を加えなければならなかった背景には、上述のような実体経済とインフレ率の関係の変化があるように思える。