植田総裁が言及した「中立金利の引き上げ」はなぜ効果的なのか?(写真:ロイター/アフロ)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

にわかに浮上する中立金利の論点

 11月4日の参院財政金融委員会で、日本銀行の植田総裁は「(中立金利は)現在はかなり広い幅でしか推計できていない概念だが、今後もう少し狭めることができたら適宜公表していきたい」と述べた。

 中立金利については、利上げ予告として注目された名古屋における12月1日の会見でも「中立金利までどれくらい距離があるのか、もう少しはっきりと明示したい」と述べており、12月18~19日の会合の争点となる可能性は高そうである。

 現在、金融市場で共有されている中立金利のレンジは「1.00~2.50%」。これは、2024年8月29日に公表された日銀のワーキングペーパー(以下、単にペーパー)「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」の分析を元にしている。

 具体的な推計値を見ると、分析時点で最新となる2023年1~3月期に関し、最低値が▲0.990%(Goy・Iwasaki(2024)モデル)、最高値が+0.509%(HLW(2023)モデル)とされており、「▲1.0%~+0.5%」というレンジが市場の抱く自然利子率のイメージだ。

 この自然利子率にインフレ率+2%を加えることで、中立金利(≒自然利子率+インフレ率)のレンジである「+1.0%~+2.5%」が導出される(図表)。しかし、このレンジが広めであることに加え、そもそも2023年時点の数字であることから、この時点で修正が図られるのは不自然ではない。

 ちなみに、ペーパーは参考文献を除く本論17ページから構成されているが、「不確実性」という言葉が16回、つまりほぼすべてのページに登場する。過去、氷見野副総裁も「少なくとも当面の日本の政策運営は、中立金利の議論からそのまま当面の進め方の答えが出るというわけにはいかない」と述べ、中立金利のイメージが得られたからと言って「次の一手」が読めるようになるわけでは全くないと念押ししている。

 ただ、ペーパー公表以降、「利上げは最低でも1%」との思惑が金融市場に定着してきたのは事実だ。金融政策決定会合に際し、総裁の口から中立金利水準に言及があれば、(総裁が何と言おうと)金融市場は、当面の政策運営の道標と受け止めるはずである。