国民にとっては痛みの種類が変わるだけ
いずれにせよ、このタイミングで中立金利の下限を切り上げ、周知させる政策運営は政府・日銀双方にとって損のない一手と考えられる。ひとまず12月利上げと共に中立金利の下限を切り上げるとすれば、円売りをけん制する有効な手段になり得るし、その後の継続的な更新と金利操作を交えることで、極めて低い実質金利という円安相場の底流に切り込んでいくこともできる可能性になる。
もっとも、金利引き上げで円安を止めることができても、それは国民が我慢する相場現象が為替から金利になっただけであり、根本的に何の解決にもなっていない。
いや、円安の場合、大企業・輸出製造業や観光産業など追い風となる業種も相応に存在する。家計部門でも外貨建て資産への運用が増えている世相を踏まえれば、それが円安インフレに対する防御壁として機能する面もある。
一方、金利上昇はほとんどの経済主体にとって向かい風にしかならない。総じて利上げの方が「逃げ場がない」と感じる層は広いのではないか。この点は「国際金融のトリレンマ」から解釈する論点であり、また別の機会に改めて議論を委ねたいと思う。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年12日10時点の分析です
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中