日銀はインフレ対応よりも実体経済の状況改善を重視
ところで、中央銀行が政策金利の水準をどう判断するかについて、今日、マクロ経済を表現する標準的なモデルであるニューケインジアン・モデルでは、テーラー・ルールと呼ばれる定式化が使われる。それは、米スタンフォード大学のジョン・テーラー教授が、米国の政策金利の過去の推移を観察して提唱したものだ。
具体的には、中央銀行は、需給ギャップと、現実のインフレ率とインフレ目標との差に反応して政策金利を決めるという考え方で、かつその反応の仕方は一定期間安定していると仮定されることが多い。
この定式化自体、FRBの目標である物価の安定と最大雇用の実現を反映したものであり、物価の安定だけが使命とされている日本銀行がこの定式化を使っているのはおかしいのかもしれない。しかし、日本銀行の説明にもこのテーラー・ルールはしばしば登場する。
このテーラー・ルールにあるように、中央銀行が需給ギャップとインフレの状況を両にらみで政策金利を決めているとすれば、両者の関係が不安定化した場合、2つの要素のうち、どちらに重点を置くかで、自ずと政策金利の変更の仕方も変わる。最近のフィリップス曲線の不安定化を前提に、日米の中央銀行が長い目でみた需給ギャップをより重視したとすれば、足元のインフレ率だけをみていても政策金利の変更は説明できない。
ここでの「長い目でみた需給ギャップ」とは、上述の「基調的なインフレ率」と重なる。望ましい均衡の状態にあるマクロ経済においては、インフレ率が2%の目標値で安定し、その時、需給ギャップも需要超過でもなく、供給超過でもない状態で安定し、したがって最大雇用が実現される。
そういう見方が背後にあり、現在の2%より高いインフレ率は、その均衡状態に至る過程での過渡的なものなので、そのインフレよりも当面は実体経済の状況の改善を図る方が優先するという判断を日米の中央銀行はしていることになる。
しかし、そう考えたとしてもいくつかの疑問が残る。