物価上昇が長期化する中、日本銀行は今後どう動くのか(写真:CAPTAINHOOK/Shutterstock.com)
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日銀は9月18〜19日に金融政策決定会合を開いた。保有する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の売却を決めた一方で、政策金利は据え置いた。物価上昇は続いているが、トランプ関税の影響などを考慮したとみられる。10月には石破政権に代わる新政権が発足する。政府・日銀が必要なアクションを採る上で着目すべきポイントは何か。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

2%以上のインフレが4年も続くのに「まだデフレ」

 新政権のかたちがみえるのは来月のことのようだ。新政権は、日本経済の現状をどう評価し、それに対してどういうアクションを取るのか。それに関連した論点はこれから考えるとして、ちょっと生まれた間を使って、そもそも論を少し考えてみたい。

 これまでのところ、政府は「デフレ」からの脱却宣言を行っていない。他方、日本銀行は、物価安定の目標である2%インフレを超える物価上昇が、今年でもう4年続こうとしているにもかかわらず、基調的なインフレ率は2%に達していないと言っている。

 こうした物価変動についての政府・日銀の公式見解は、何とも生活実感に合わない。まず、「まだデフレ」と言うのは、何ともピントはずれだ。

 また、インフレの基調を示す物価の変動を、消費者物価指数を構成する品目から一時的に大きく振れるものを除いてみるのが通例ではあるが、生活者としてはエネルギーや生鮮食品の価格が上がってもインフレはインフレだ。

 個人がみている目の前の事情に、政府・日銀が関心のあるマクロ経済全体と違うところが出てくるのは、どうしても避けられない。しかし、そうであっても、「どこまで我慢すれば、長期的に明るい展望が拓けるのか」に納得がいかないと、「デフレ」脱却も宣言せず、2%以上のインフレが4年も続く状況を慎重にみている政府・日銀の姿勢について、消費者はなかなかうまく呑み込めない。

 日本銀行にしてみれば、どのようなものであれ、かつて金融環境を緩和から引き締めに転じた時点が早過ぎたという強い批判が出たことが、金融引き締め方向への政策転換を躊躇させるところもあるのかもしれない。

 加えて、内閣府の景気基準日付によれば、現在は景気拡大局面にあり、それは2020年5月からなので、もう5年を超える。1951年10月以降の景気拡大局面の単純平均は38.5か月である。実体経済の動きを景気循環の観点からみると、何らかのショックを契機に日本経済はいつ景気局面に入ってもおかしくない。