石破首相の辞任を受け、日経平均株価は急騰した(写真:ロイター/アフロ)
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
支持率回復基調の中での退陣
既報の通り、石破首相は9月7日の記者会見で辞任の意向を表明し、総裁選に出馬する意思がないことも明らかにした。大敗した参院選直後の辞任ではなく、このタイミングで意思表明したことの理由として、石破首相は①日米関税協議に一区切りが付いたこと、②総裁選前倒しを巡る党内投票を防ぐ必要があったこと──を挙げている。
②は党内の潜在的な亀裂をわざわざ可視化するようなイベントであり、これを看過するわけにはいかないとの判断は賢明である。実際、①よりも②の理由が大きかったのだろう(昨日の本欄で論じたように、関税協議はまだ道半ばである)。
1年足らずで退陣する石破政権の評価を総括することは控えるが、インフレ下の政権運営はどの国であれ難渋するものであり、発足時点から少数与党であったという事実も踏まえれば、一方的な非難もフェアではないだろう。
政局の不安定化が常態となってしまいそうな状況は懸念されるが、支持率が回復基調にある中での退陣だったことも確かである。
円安・株高に透けて見える高市トレード
金融市場の関心は既に「次の政権」に集中している。辞任の一報を受けた9月8日のアジア時間における値動きが示すように、次期首相へのコンセンサスは定まっていないが、「拡張財政路線に伴うインフレ継続、それと整合的な円安・株高」への期待は根強いものがありそうだ。1年前の総裁選で接戦を演じた高市早苗議員を念頭にトレードが進むことは必然の帰結である。
これに次ぐ候補として小泉進次郎議員、林芳正議員、茂木敏充議員といった名前も散見されるが、高市議員ほど明確な「色」を持つわけではない。少なくとも辞任報道直後の円安・株高は高市トレードの一端を示したものだと考えたい。
総裁選の実施方式は1人1票の「国会議員票」とそれと同数の「党員・党友票」の合計を競うフルスペック方式が採用されるようだ。昨年の総裁選の経緯を踏まえると、党員から多くの支持を集めたのが高市議員であった。フルスペック方式を前提とすれば、低金利・拡張財政路線から円安・株高が促されるのが自然である。
もっとも、高市議員を取り巻く環境は1年前とは若干異なっている。