大阪・関西万博で米国のベッセント財務長官と握手する赤沢経済財政・再生相(写真:ロイター/アフロ)
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(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

再びリスク化する日米協議

 日米関税協議を巡る不透明感は7月下旬にいったんは払拭されたものの、ここにきて暗雲が垂れ込め、再び相場のリスクと化しつつある。

 既報の通り、8月28日に予定された赤沢亮正経済財政・再生相の訪米が出発直前に中止された。これは対米投資の詳細を明文化する代わりに、いまだ実現していない自動車関税の引き下げや、相互関税の特例措置(ノースタッキング条項、後述)を実現する大統領令を出してもらうための訪米だった。

 しかし、米国の事務方と折り合いがつかず、大統領令は出されないという状況を受けて訪米中止に至っている。この状況は、どうやら本稿執筆時点(9月3日)でも進展が見られていない。

 7月下旬に報じられた通り、日本は相互関税を15%まで引き下げてもらう代償として、第二次トランプ政権の任期中である2028年までに5500億ドルの対米投資を約束している。

 合意が報じられた当初から合意文書が存在しないことへの懸念は指摘されていたものの、「合意による不透明感の払拭を優先した」というのが日本政府の主張だった。

 であれば、文書によらずとも日米合意に不一致はないと思われたが、現実は大きな齟齬があるようだ。

 日米両国に同次元の文書がないため、そもそも論点ごとの相違点を把握することすら難しい状況だと見受けられるが、大きな論点は「資金の性格」と「スタッキングの取り扱い」と考えられる。最も重要な論点で大きなボタンの掛け違いが発生していると言っていいだろう。