エンゲル係数は上昇傾向にある(写真:moonmoon/イメージマート)
(河田 皓史:みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフグローバルエコノミスト)
「エンゲル係数」をご存じだろうか。「家計の消費に占める食料の割合」と定義される、ごく単純な経済指標である。
この指標は、通常は所得が上がるにつれ低下する。つまり、所得が低いときには所得の相応割合を必需品である食料に充てざるを得ないが、所得が高くなり生計に余裕が生まれると奢侈(しゃし)品への支出が増え、消費に占める食料の割合(=エンゲル係数)は低下する。
このように所得水準が高まるほどエンゲル係数が低下するという関係を「エンゲルの法則」と呼ぶ。
ある高名な経済学者は、1950年代に「Of all empirical regularities observed in economic data, Engel's Law is probably the best established.(経済データにおいて観測される全ての経験的規則性の中で、エンゲルの法則はおそらく最も確立されたものだ)」と述べている。
日本政府も、昭和26年(1951年)の経済白書において、エンゲル係数の低下を指摘したうえで「幾分でも戦前の姿に近づいた」と述べており、戦後間もない頃からエンゲル係数が「豊かさ」の指標として位置づけられていたことがわかる。
日本のエンゲル係数を「年収階級別」にみると、確かに年収階級が上がるにつれエンゲル係数が低下する形となっている(図表1)。つまり、エンゲルの法則は現代日本においても観察されており、エンゲル係数が「豊かさ」の指標としての機能を今でも有していることを示唆している。
図表1:年収階級別にみた日本のエンゲル係数
(出所:総務省)
一方、日本のエンゲル係数を「時系列」でみると、2010年頃から明確な上昇トレンドにある(図表2)。エンゲルの法則を額面通りに受け取るとすれば、日本の家計は過去10数年にわたって「豊かさ」を失ってきた、つまり、「貧しくなってきた」ということになる。
図表2:時系列でみた日本のエンゲル係数
(出所:総務省)
