東京・湾岸地域のタワーマンション(写真:kanichan/イメージマート)
(河田 皓史:みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフグローバルエコノミスト)
小売店の値札を眺めてインフレを感じることは今や日常となったが、「家賃」に関してはどうだろうか。食料インフレと比べれば大分控えめではあるが、実は家賃も静かに上昇し始めている。
消費者物価指数(CPI)の家賃は、2000年頃から一貫して下落し続けてきたが、2022年頃に下げ止まり、2024年頃から上昇が明確になってきている(図表1)。特に、東京都区部においては2024年後半頃から上昇ペースが急加速しており、これまでとは異なるフェーズに入ったように見える。
■図表1:CPI家賃の推移
(出所:総務省)
言うまでもないが、家賃上昇は賃貸住宅で暮らす家計(筆者もその一人である)にとっては困ったことである。家計支出を10分類に分けた際、最もウエイトが大きいのは「食料」だが、それに次いで大きいのは家賃が大部分を占める「住居」である(図表2)。
■図表2:家計消費の構成比
(出所:総務省)
現状では食料価格上昇に比べれば家賃上昇のペースは緩やかだ。しかし、もしこれから家賃の上昇ペースが加速し、食料価格並みの上昇率になってくれば、これまでの食料インフレと同程度の大きな家計負担が追加的に生じることになる。
見方によっては、家賃上昇は食料価格上昇よりも家計に厳しい。食料価格上昇に対しては、家計は様々な形で「生活防衛」が可能である。割安なプライベートブランド品の購入を増やすとか、牛肉から豚肉・鶏肉にシフトするとか、セールを狙って買い物をするとか、生活防衛策は色々ある。
一方、家賃上昇に対する生活防衛の余地は基本的にはない。あえて言えば「もっと家賃の安い部屋に引っ越す」というくらいだが、その場合は新居の仲介手数料、転居費用、礼金などが発生するため、それらを含んだトータルではかえって割高になってしまうことが多いだろう。
しかも、家賃が上昇している局面において「現状よりも安い部屋」を探そうとすれば、相応のスペックダウン(古い、狭い、交通アクセスが悪いなど)となることは避けがたい。このように「逃げ場がない」という意味では、家賃上昇というのは非常に厄介なインフレである。