日本銀行は9月の金融政策決定会合で保有するETF・REITの売却方針を決定した。写真は記者会見した植田和男総裁(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
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日本銀行は、9月の金融政策決定会合で、保有する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の売却開始を決定した。異次元緩和によるETF・REITの大量購入で膨れ上がった保有資産の売却で、金融政策の正常化にまた一歩前進するが、現在の方針だと単純計算で100年以上の月日を費やすこととなる。果たしてそのような“長期戦”で問題が解決すると言えるのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

市場関係者にとってはサプライズ

 今回の金融政策決定会合では、政策金利がどうなるかに注意が向いていて、ETF・REITの売却開始決定はサプライズと受け止めた市場関係者も多かったようだ。私自身も「おっ」と思った。

 しかし、後出しで良く考えてみると、9月の会合は、日本銀行が2002年以降に民間銀行から買い入れた株式の売却をこの7月に終了してから初めての会合だった。株式売却のフローを途切れさせないという意味では、ここで異次元緩和の一環として購入したETF・REITの売却開始を決めるのは、ある意味、自然なことであったとも言える。

 日本銀行は、2002年11月から2004年9月まで、あくまでも銀行部門の株式保有のリスクを軽減するという趣旨でこの株式購入を始めた。

 銀行の自己資本比率規制において株式はリスクの高い資産とみなされる。そのため、経営の安定性を確保する上で、株式保有に対応した自己資本の厚さが求められる。銀行保有の株式を買い取ることで、その負担を軽減するというのが当時の狙いだった。

 この期間に日本銀行が購入した株式の総額は約2.2兆円。2007年10月から売却が始まったが、2008年10月にリーマンショックもあって売却が停止された。逆に2009年2月から2010年4月には再び民間銀行からの株式購入が行われ、その総額は約0.4兆円だった。2016年4月からは再び売却が開始され、この7月までに全て売却された。

 日本銀行は、10日毎に簡略化されたバランスシートである営業毎旬報告を発表している。今年6月末まではそこに「金銭の信託(信託財産株式)」という項目があった。これが銀行から買い入れた株式の残高を計上している項目だったが、その項目は7月上旬の報告からなくなっている。

 実に18年余りを経て完結をみた、日本銀行が購入した銀行保有株式の売却だが、それでも100年以上かかるとされる今回のETF・REIT売却よりはかなり早い幕引きだった。