デンマークが移民や難民に求める「移民契約」とは
ペース:これは非常に強い表現ですが、デンマーク内にある西洋人ではないイスラム教徒のコミュニティを「ゲットー」と呼び、どこにゲットーがあるかというリストまで作られています。ただ、「ゲットー」という言葉はあまりにも印象が悪いので、「並行社会(parallel society)」と呼ばれるようになりました。
デンマークでは今、この並行社会に対する目が非常に厳しくなり、そこに住む人々を厳しく監視する向きが強まっています。たとえば、暗くなっても自転車のライトを点けていなかったという理由で犯罪者扱いにしてリストに記載するのです。そこには、移民やその子孫をデンマークから追い出そうという意図があります。
こうした偏見がとくに屈辱的に作用するのは移民の子孫たちに対してです。デンマークで育ったのに、「自分の国に帰れ」などと言われても、どこへ帰ればいいのでしょうか。
移民、特にイスラム教徒の移民に対する厳しい目は、9.11のテロ以降、強烈になりました。「多文化共生」という概念は「統合」という価値観に置き換わり、ナショナリズムが高揚しました。
そして、2005年に「ムハンマド風刺漫画掲載問題」がありました。デンマークの日刊紙にイスラムの預言者ムハンマドの風刺漫画が掲載された出来事です。
その内容の一つは、イスラム教徒が頭に巻くターバンを爆弾に見立てるなど、テロリズムとイスラム信仰を結び付ける内容でした。その結果、デンマークと中東諸国の間に軋轢が生まれ、中東の国々がデンマーク製品のボイコットをしました。
──中東からの移民・難民への違和感に端を発して、次第に閉鎖化していったのですね。
ペース:2000年代半ばに、デンマークでは「移民契約」というものができました。移民や難民としてデンマークに入る人は、この文書に署名しなければならなくなったのです。
これは「アクティブ・シティズンシップ」と「統合政策」に合意するための署名です。デンマーク語を使いこなせるようになること、デンマークの文化習慣を尊重することなど、さまざまな条件が書かれています。
2010年にデンマークは「ポイントベースシステム」というものを作りました。デンマークの文化習慣の習得、犯罪歴、高い教育レベルなど、さまざまな項目で移民を評価して、ポイントが高い人だけが永住権を取得する道が開けるのです。
──どんどん審査が厳しくなっていったのですね。