社会民主党政権が極右政策を推し進めるねじれ

ペース:2015年に「欧州難民危機」が発生し、この時に、まだデンマークの首相になっていなかったメッテ・フレデリクセン現首相は「難民受け入れゼロ」を目標に掲げ、難民の受け入れを閉じていく方向性を打ち出しました。

 そして、2019年に「パラダイムシフト」と呼ばれる出来事が起こりました。これは難民のデンマーク滞在を永続的に可能なものではなく、一時的な避難滞在と位置づけ、なるべく早く母国へ送還する、という方針です。特にアサド政権下のシリアへの送還など、難民にとっては極めて危険であり、大きな議論を巻き起こしました。

 2021年には、さらに難民の受け入れ枠が少なくなり、今では既に永住権を取得した人たちまで再審査の対象にしようという議論まであります。驚くべきことは、こうした極右政策を主導している現フレデリクセン政権が、社会民主党の政権だということです。

──イギリスが最近、デンマークを模倣して移民・難民政策を変更しようとしています。

ペース:マムード英内相は、デンマーク型の難民認定制度を導入するという計画を発表して物議を醸しました。これはイギリスが理想的な新天地になるという期待を不法移民に持たせないようにして、国外追放を容易にすることを目的にしています。

 移民・難民政策を比較する上で、イギリスとデンマークは人口規模が異なることを理解することが必要です。デンマークの人口は約600万人で、イギリスの人口は約7000万人です。難民の申請件数を単純な数字で比較するのは間違いです。

 人口サイズを考慮して計算し、人口あたりの難民の申請件数を出すと、かつてデンマークとイギリスはほぼ同じでした。現フレデリクセン政権ができる前の2年間、デンマークの人口10万人あたりの難民の申請件数は57件で、イギリスは55件でした。

 ただ、その後は状況が激変しています。イギリスへの難民の申請件数はほぼ3倍に増加し、デンマークは同じ期間で3分の1にまで減少しました。マムード英内相は、デンマークの難民件数が減少している点を評価しているのです。

 では、なぜデンマークを目指す難民が減ったのか。それは、国の難民政策を閉じているという姿勢を示すことで、「来てほしくありません」というメッセージを難民に対して打ち出しているからです。平等主義国家を標榜しているはずの現在のデンマークの移民政策は、民族至上主義的な論理に偏っています。

 デンマークは国連難民条約、欧州共通庇護制度(CEAS)、欧州人権条約(ECHR)、ダブリン規則など移民・難民政策に関する複数の条約に署名しており、迫害から逃れる人々に保護を提供するだけでなく、公正かつ効率的な申請手続きを維持しなければならないはずです。

 デンマーク政府は、国境管理や公共の安全といった国益と、庇護希望者や難民への人道的な扱いとの間でバランスを保つ努力をもっとしなければなりません。