モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月11日、写真:共同通信社)
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つげ のり子:放送作家、皇室ライター)

慰霊と平和希求の旅で見えた令和の価値観

 令和という新しい時代が始まっておよそ7年。遠い将来、人々がこの時代を振り返るとき、どのような価値観が共有され、どのような皇室像が語られるのだろうか。そう考えると、今年はその輪郭がはっきりと見えた一年だったのではないかと感じる。

 戦後80年という節目の中で、両陛下は国内外で先の戦争で犠牲となった人々への慰霊と、平和を希求する旅を重ねられた。その姿に「令和の皇室像」の核心が示されたともいえる。そして、その歩みを最も近くで支えてこられたのが、12月9日に62歳の誕生日を迎えられた雅子さまである。

 今年の雅子さまのご活動を振り返ると、その表情にはこれまで以上の明るさと落ち着きが宿っていた。

 医師団の見解では長らく「御快復の途上にあり、依然として御体調には波がおありです」という表現が続いてきたが、今年のご様子からその定型句に変化が期待されたものの、やはり去年と同じ文言であった。

 雅子さまは、陛下の戦後80年の慰霊の旅、そのすべてに寄り添われた。国内各地の慰霊碑への訪問に加え、7月にはモンゴルで、異国で亡くなった抑留者の慰霊碑に哀悼を捧げられた。戦争を知らない世代が多数となる中、平和の記憶を次世代へ引き継ぐという強い決意がにじむ旅だった。

 献花の際に深く頭を垂れる姿、静かな祈りに込められた真心。凛とした佇まいと穏やかな気配は、慰霊の意義を静かに、しかし確かに伝えるものであった。

 とりわけモンゴルでの雅子さまの表情は鮮烈だった。慰霊の場で見せられた厳粛さと、友好親善の場に転じたときの柔らかな笑顔。その緩急は、陛下との二人三脚で培われたあうんの呼吸を思わせ、皇后としての成熟と風格を感じさせた。