ラオスの「凱旋門」パトゥーサイ(ビエンチャン、筆者撮影)
(つげ のり子:放送作家、皇室ライター)
日本とラオスの「光と影」
この夏、東南アジア唯一の内陸国・ラオスが、二つの理由で注目を集めた。
ひとつは、日本人による児童買春事件の摘発である。農村地域ではいまも男子優遇の風潮が根強く、女子教育は軽視されがちだという。
18歳未満で結婚する「児童婚」も少なくなく、女子の約33%が結婚経験を持つ。これは東南アジア諸国の中でも際立って高い数字だ。女性を取り巻く人権意識は、依然として十分に高いとはいえないのが現状である。
近年、ラオスは経済成長の兆しを見せているものの、貧困はいまも深刻だ。児童買春の背景には、農村部の少女たちが“身売り同然”に働かざるを得ない現実がある。
国家全体としても重債務を抱え、インフラ整備や教育への投資は後回しにされてきた。この事件は、ラオス社会が抱える「貧困と格差」の闇を改めて浮き彫りにしたといえる。
一方で、同じ時期にもうひとつのニュースが報じられた。
天皇陛下と皇后雅子さまの長女・敬宮愛子さまの、初の公式海外訪問がラオスになったというものだ。日程は11月17日~22日の6日間と報じられた。到着した翌日には、首都ビエンチャンでトルトン国家主席への表敬訪問も行われ、副主席主催の晩さん会も予定されている。
初の公式海外訪問がラオスに決まった愛子さま(写真:工藤 直通/アフロ)
他にも、ラオスのシンボルである仏塔「タートルアン大塔」や、ラオスを代表する建築物の一つ「凱旋門」、日本の支援で建てられた「武道センター」なども訪問される。
タートルアン大塔(ビエンチャン、筆者撮影)
20日は、中国によって建設された「ラオス中国鉄道」を利用され、古都ルアンパバーンへ移動。国立博物館や日本の特定非営利活動(NPO)法人が建設した「ラオ・フレンズ小児病院」などを視察される予定だ。
実際、愛子さまが各地の施設を訪ねるほど、日本とラオスの関係は深い。今年は「日ラオス外交関係樹立70周年」という節目を迎えた。1965年に日本が初めて青年海外協力隊を派遣した国であり、ラオスへの累計派遣人数は1000人以上。現在も10を超える日本のNGOが現地で活動し、医療・福祉・教育など幅広い分野で支援を行っている。日本政府による無償資金協力は年間約44億円に上る。
しかし皮肉なことに、日本が掲げる「貧困からの脱却」という支援の理念と、日本人による児童買春事件は、まさに光と影──二つの矛盾した現実を同時に映し出した。
皇室の方々は海外訪問にあたり、訪問国の歴史や文化、社会状況について専門家の講義を受け、関連資料を徹底的に読み込まれる。十分にラオスの国情を理解しておられる愛子さまが、いまこの国を訪れるという決断には、どのような意味があるのだろうか。