空洞化するクアッド

 しかしその後もインドはロシアとの原油・武器取引を拡大。モディ氏はロシアを名指しで非難することは避け、23年9月の20カ国・地域(G20)ニューデリー首脳宣言ではウクライナ戦争の扱いを極めて曖昧な文言に抑えた。インド流の戦略的自律性の実践例といえる。

 日本の安倍晋三首相(故人)が主導し、バイデン前米政権で推進された日米豪印4カ国(クアッド)は足元から揺らぎ、トランプ政権が関税を“武器化”した強圧的な対印政策が前面に出る。クアッドは死んではいないが、機能不全に近い。

2019年6月、大阪で開かれたG20サミットの際に笑顔で一緒に写真に収まったトランプ大統領、安倍晋三首相、モディ首相(写真:ロイター=共同)

 中国を名指しこそしないものの、事実上の対中包囲網のクアッドは21〜22年に年2回ペースで首脳会談が重ねられ、重要半導体サプライチェーン、ワクチン供給、宇宙、サイバーなど幅広い分野で協力を強化した。日本が最も積極的な推進役、米国が旗振り役だった。

 しかしトランプ氏はクアッドを軽視し、中国との直接取引を優先させた。クアッドの将来を左右する鍵はインドにもかかわらず、そのインドがクアッドから最も距離を置く。首脳会議は見送られ、閣僚協議も停滞、リーダー不在のクアッドは漂流する。