モディ氏とプーチン会談、3つの意味
中国と何度も国境で衝突しているが、インドは反中同盟には入りたくない。ロシアとの関係も維持しなければならない。反中・反露はインドの利害にそぐわない。米国にとってクアッドよりAUKUS(米英豪)の方が重要だ。日本だけがクアッドを最重要戦略として保持している。
モディ氏とプーチンの首脳会談には少なくとも3つの意味がある。第一に非西側の正統性を演出できる。プーチンは「西側による包囲網は不完全で、中国に加えてインドもロシアを見放していない」というメッセージを国内外に発信した。
第二にインドは交渉力を底上げできる。トランプ政権に対して「インドには他の選択肢がある」と示すカードになる。第三にインドは米露のウクライナ和平交渉の外側で自国のエネルギー安全保障と武器調達という極めて現実的な計算に基づいて行動している。
インドの対米貿易は1320億ドル。対中貿易は1280億ドル。対露貿易は690億ドル。対露関係の拡大は一時的で、長期的には管理下に置かれながら縮小していくとみられている。
今回の印露首脳会談で対露包囲網を巡る「西側 vs 非西側」の力学、「戦略的自律性」を維持したいモディ氏がその狭間を巧みに立ち回っている現実が浮かび上がる。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。


