外国人の社会保険料が日本の社会保障を支える可能性

海老原:私は決して人権論者ではないし、かといって移民をいくらでも入れればいいという産業論者でもありませんが、日本人が得するスマートな仕組みをまずは作ったほうがいいと考えています。

 そこで問題になる1つの重要な論点は、社会保障です。外国人の流入によって年金、健康保険、医療費の面で大赤字になるようでは困ります。むしろ外国人が入ることで、黒字になる仕組みにしたほうがいい。

 外国人の7割(3分の2)が、期限を終えてきちんと帰ってくれたら、日本にいる外国人の多くは若年層になります。留学ビザ、特定技能、技能実習、その多くは40歳未満です。若いですから、医療費はまだほとんどかかりません。外国人を若い層に保ち、彼らの社会保険料を天引きで取れれば、日本は社会保障の面で大きな黒字が得られます。

──しかし、彼らが日本で稼いだ年金は払わないといけませんよね?

海老原:そこです。健康保険や税金は積み立てではなく、働いた分だけ払うものです。こうした面では、若い層を取り込むと日本は得をします。問題なのは年金です。

 この点に関して、日本に来る外国人の母国が日本と社会保障協定を結んでいる国の場合、外国人は年金を全額持ち帰ることができます。社会保障協定を結んでいる国の多くは日本と給与レベルが同じなので、同じ年金の感覚で通算できるのです。先進国から来た人は、基本的にはこれに当たります。

 ところが、途上国などの場合は給与の体系が異なるので、その国で払っていたら得られるであろう年金は日本の金額で考えたらずっと少なくなります。こういう国を母国とする外国人に対しては、その外国人が自分で稼いだ分については本人が持って帰ることができるようになっています。いわば、いい退職金です。毎年、企業は給与の9.3%を年金として払っています。

 特定技能の場合、年収300万円弱の人が多いので、年金はおよそ年25万円です。8年間日本にいたら200万円持ち帰ることができます。現地のレートにすると相当な額ですし、ほぼ無税で持って帰ることができるので、みなさん、大喜びです。

 問題は、もう半分の企業が積み立てた部分です。これは国庫の没収となり、日本の年金資産になっています。

──すでにシステム上、そうなっているのですね。

海老原:そうです。なぜ今までこの部分は議論にならなかったかというと、特定技能ができたのが2019年だからです。2024年に初めて自分の年金を持ち帰る事例が出ました。特定技能も技能実習も、今後どんどん数が増えていく予定です。現在は70万人ですが、数百万人になっていけば、企業の支払い分は数千億円になります。

 ただ、この資産をただ年金の懐に入れていいのかというと、話はそう簡単ではありません。実際、この年金を「在留外国人の生活向上に使うべきだ」という意見もあります。そう考えると、この資産を今いる現役の在留外国人に使うのは間違っていないと思います。

 問題を起こした外国人を収容する施設、再教育、在留外国人に関する調査、技能実習で働いている企業がブラックではないかを調べる外国人技能実習機構(OTIT)の強化など、守りの部分にまずこうしたお金は使われるべきだと思います。それでも、まだまだ余るので、適切な使い道を検討できるのではないでしょうか。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
サッチモ代表社員、大正大学表現学部客員教授
1964年東京生まれ。 大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、 人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社サッチモを立ち上げる。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。