ファミコン版の重大な没案
ところで、「原作」となるファミコン版では、堀井雄二に次の構想があったことが知られている。
主人公たちが「最後の敵」と戦う時、サマルトリア王子が自らを犠牲にして、これを倒すシナリオを予定していたというのだ(『ファミコン通信』1987年7月10日号における、堀井雄二の証言)。
思うにメガンテの呪文を使って、裏ボス「悪霊の神」(最初に考えていた『ドラゴンクエストII』のサブタイトルはこちらであったという[『ドラゴンクエストI&II公式ガイドブックHD2D版』スクウェア・エニックス、2025年])にトドメを刺す展開を作っていたのだろう。
だが、衝撃的なのはそれだけではない。
サマルトリア王子の死に続けて、もう一人、さらなる犠牲者が連続発生することになっていた。
ローレシア王子とムーンブルク王女の二人がお城に凱旋して、一大セレモニーが開催される中、「お兄ちゃんの仇っ!」と短刀を持った少女がローレシア王子の胸に深々と刺して、主人公を殺害するというエンディングだ。
完全なバッドエンドである。
このアイデアは「あまりに悲しすぎる」として、採用を見送られたが、堀井雄二氏は別の作品でこのような悲劇的な物語を実現してみたいと述べており、かなり惜しい気持ちでいたようだ。
彼の過去作『ポートピア連続殺人事件』の真犯人からもわかるように、あっと驚く展開を仕掛けるのが好きであるから、これはかなり本気だったのではないかと思われる。
実際、先に示したサマルトリア王女のセリフは、【ハーゴン討伐後】の簡素な祝福テキストを除いて、その伏線として充分に仕向けられているようにも読める。