『切腹』御殿場ロケ、“千本ケ原の決闘”に臨む津雲半四郎役の仲代達矢 写真/日刊スポーツ/アフロ
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(歴史家:乃至政彦)

黒澤明作品をはじめ、多くの名作時代劇に息づく仲代達矢。その重厚な存在感と変幻自在の演技は「時代劇」の枠を超えて観る者を圧倒した。彼が名優であるゆえんを、代表的な7つの役柄を通して、追っていきたい。

7人の仲代達矢

 2025年11月8日、俳優・仲代達矢(なかだい たつや)がこの世を去った。享年92。

 戦後日本映画を代表する名優であることは言を俟たない。

 数ある彼の出演作の中で、私が最も好きなのは『天国と地獄』(黒澤明監督、1963年、東宝)の戸倉警部だが、今回は特に「時代劇」における仲代達矢をテーマとするものとさせてもらいたい。

 仲代達矢という人は、どんな作品に出ていても、すぐに仲代達矢とわかる役者であって、余人の何者でもない。

 掘りの深い顔立ち、独特の声質、颯爽とした重いオーラ。

 画面の中にあるだけで、空気を変えてしまう、それほどの強い存在感。

 時代劇スターでは、三船敏郎、勝新太郎にも認められる特徴であるが、仲代達矢が彼らと異なるのは──本人の意思が反映されているかどうかは知らないが──いつも異なるキャラクターを演じるところにある。

 テレビ時代劇の主人公に多いことだが、時代劇俳優が一度「ハマり役」を見つけると、それに似たキャラクターが何度も当てられることが多い。

 それなのに、彼の演じる時代劇キャラクターは、いつも違っていた。

 ここでは、彼の演じた時代劇キャラクターの中でも特に印象の強いキャラクターを7人ばかり、挙げていこう。