⑦時代劇の変遷とともに──テレビでの深化

 映画の黄金期が過ぎ、時代劇がテレビへと主戦場を移していく中でも、仲代は新しい形で武士を演じ続けた。

 その中で、私が個人的に印象に残っているのは、NHK大河ドラマ『風林火山』(2007年、演出:清水一彦ほか)である。

 仲代は本作で、若き日の武田信玄の父・信虎を演じた。信虎といえば、強烈な暴君として知られる(ただしこれは父を追放した信玄を正当化する『甲陽軍鑑』の脚色で、事実関係は再検討が進められている)。

 その暴君ぶりを、仲代達矢が、好色、残忍、狡猾という三拍子揃えて演じ通したのである。

 この配役は『影武者』で信玄を演じたことから選ばれたものと思うが、影武者の盗賊や信玄とも全く別種のキャラクターを演じて、違和感がないのは驚異的だった。

 この時、仲代はすでに70代半ば。

 しかしその声の力と眼光の鋭さは、衰えを見せていなかった。

 老いを隠すのではなく、むしろ老いを演技に昇華していた。

仲代達矢というオーラの一貫性

 仲代達矢は、善悪様々なキャラクターを演じてきたが、いずれも強い「陰」のオーラを漂わせているところに共通点がある。

 それは男が受けてきた傷であり、汚れであると共に、その「陰」を背負ってなお、堂々と歩いていく力強さである。

 仲代達矢の遺したオーラに、これからも多くの人が惹きつけられていくことだろう。

【乃至政彦】ないしまさひこ。歴史家。1974年生まれ。高松市出身、相模原市在住。著書に『戦国大変 決断を迫られた武将たち』『謙信越山』(ともにJBpress)、『謙信×信長 手取川合戦の真実』(PHP新書)、『平将門と天慶の乱』『戦国の陣形』(講談社現代新書)、『天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった』(河出書房新社)など。書籍監修や講演でも活動中。現在、戦国時代から世界史まで、著者独自の視点で歴史を読み解くコンテンツ企画『歴史ノ部屋』配信中。