①『七人の侍』における浪人

 仲代が初めて黒澤明監督の作品に出演したのは、『七人の侍』(1954年、東宝)でモブ侍としてである。

 彼のデビュー作とされていて、端役の浪人(牢人)の役だった。

 しかし、私はつい最近まで、どの侍が仲代達矢なのか、なかなか判断できなかった。

 それぐらい、当時の彼には、まだ独特のオーラを感じ取れなかった。

 役柄は、モブ侍(しかし、そのシーンでは必要不可欠)なので個性を出すべきシーンではなかったし、普通に考えれば22歳の若さで、特別なオーラなど作りようがない。

 余計なインパクトを残さない役に忠実だったことを評価するべきだろう。

②『用心棒』における卯之助

 以後、俳優としての実績を積み重ねて、小林正樹監督の『人間の條件』(1959〜61、松竹)で主演男優に選ばれ、その存在感を示し、秀逸な演技力で高い評価を集めた。

 そして、黒澤明監督の『用心棒』(1961年、東宝)で再び時代劇に登場する。

 今度は、副主人公と言っていい配役だった。

 主人公の桑畑三十郎(演:三船敏郎)と名乗る浪人と対峙するヤクザ者、卯之助の役である。

 卯之助は色白の優男風な容貌で、渋谷ででも買ったようなマフラーを身につけており、しかもピストルまで使うという斬新なキャラクターだ。

 性格に至っては、劇中トップクラスに冷酷で、計算高い切れ者である。

 腕利きの悪役として、前例のない完成度である。

 最終的には、三十郎に斬殺されるのだが、その死に際のセリフは、物語の最後でくたばる悪役として、ふさわしいかっこよさだった。