『豊臣勲功記』より、本能寺で討ち死にする森蘭丸

(歴史家:乃至政彦)

男色に関する誤解

 戦国時代の男色(『日葡辞書』に「Nanxocu.ナンショク(男色) 悪い,口にすべからざる罪悪.」とあるように、「なんしょく」が正しい発音。「だんしょく」とは読まない)については、今も多くの誤解がまかり通っている。この時代の武士は、男色が当たり前だったというのは、ある意味では正しいが、ある意味では間違っている。

 男色を好きな武士はたくさんいたのは事実だが、有名な「カップリング」はごく一部を除いて、ほとんどどれも事実ではない。

 少なくとも、武田信玄と春日虎綱(高坂昌信)、上杉謙信と樋口与六(直江兼続)、織田信長と森成利(森蘭丸)の関係は、史料の誤読、または江戸時代や昭和の創作によって広まったものである。

 基本的に男色は一過性の「忍ぶ恋」であり、大っぴらにするものではなかった。だから、有名な関係にはなりにくい。

 このほか一般的な男色イメージと、事実との相違点を3点ほど述べていこう。