③『椿三十郎』における室戸半兵衛
続く『椿三十郎』(1962年、東宝)では、室戸半兵衛というもう一人のシゴデキな武士を演じた。
シゴデキと言っても、悪人として完璧なのである。
これまでと打って変わって、体制の内部に潜む優等生の悪人で、藩から甘い汁を吸うのが彼の狙いだ。
その領内へぶらりと立ち寄った、前回と同じ三十郎が、今度は「椿三十郎」を名乗り、このシゴデキ・切れ者の室戸と緊張感あるやり取りを重ねながら、対決に向かっていくストーリーである。
室戸半兵衛は、体制側として完璧な男でありながら、それを食い物にする悪役として、印象深い。
勧善懲悪の時代劇の常として、ラストでは三十郎に刺殺されるのだが、この殺陣は他の時代劇と全く異なる名シーンとして今も伝説的である。
彼の無言の最期もまた、時代劇の悪役として一つの理想に達していた。
④『切腹』における津雲半四郎
先の『椿三十郎』は正月映画として活況を呈したが、同年夏、仲代はもう一つの名作映画で主人公を演じた。
彼を『人間の條件』で大ブレイクさせた小林正樹監督の『切腹』(1962年、松竹)である。
これはドラマが素晴らしいので、あまりネタバレはしたくないから、仲代の活躍だけに触れる。
舞台は彦根藩の井伊家。そこに敷地内での切腹を願い出る浪人・津雲半四郎を仲代が演じた。
これもまたこれまで彼が演じた侍やヤクザとは完全に異なるキャラクターである。
本作で仲代は大立ち回りを演じるが、これがまた一般的なチャンバラとは異なる独特の剣捌きで、強い緊張感をもたらしてくれる。
監督の作風もあろうが、主人公サイドの、ちょっと逆恨みを孕んでいるのではないかと思えるような義憤と復讐劇であるのに、これほどの説得力をもたらしてくれるのは、主人公が仲代達矢だったからとしか言いようがない。
悲壮感に満ちた名作なので、未見の人はぜひ一度ご覧になっていただきたい。