中国発のQRコード決済が席巻

 2010年代に入ると、中国でQRコード決済が普及しはじめます。低所得者が多く、クレジットカードを持てない人の多い中国ではそれまでキャッシュレス決済インフラが整っておらず、そこに浸透する形でQRコード決済が普及していきました。

 実は、日本でも2000年代前半にNTTドコモが実験的にQRコード決済を導入していた(Cmode)のですが、オペレーションのわずらわしさからか、普及はしませんでした。これは2010年にサービスを終了しています。

 QRコード決済は、中国での導入からしばらくの間は「中国や東南アジアではQRコードを読み取って決済する仕組みが普及しているそうだ」という、あくまでも海外の話でしたが、2018年、PayPayの登場で流れが変わります。「100億円無料キャンペーン」は記憶に新しいと思いますが、莫大な資金を投入して、QRコード決済の普及が進められていきました。

 正直なところ、私としてはQRコード決済が普及するとはまったく思っていませんでした。なんといっても、QRコード決済はいちいちスマホでアプリを取りだしてQRコードを表示させたり読み取ったりと、ユーザー体験がとても煩雑であまり利便性を感じず、下手すると現金で支払うよりも手間がかかります。タッチ決済が浸透した日本で普及する余地はないのではないかと思っていました。

 しかし、現状では冒頭の資料でも示したとおり、QRコード決済は電子マネーの2倍の決済額となっており、クレジットカードに次ぐキャッシュレス決済手段の地位を占めるまでになりました。

 QRコード決済の大きなメリットとしては、個人間送金に利用できることがあげられます。多くのQRコード決済は「資金移動」という法的なスキームを利用しています。前述の「前払式支払手段」と「資金移動」はどちらも資金決済法上の制度なのですが、その最大の違いは、前払式支払手段で発行された電子マネーは原則払い戻しができないのに対して、資金移動で発行された電子マネーは払い戻しが自由にできることです。

 資金移動であれば電子マネーを受け取った側が円に払い戻すことができるので、電子マネーを通じた個人間送金ができるというわけです。

 一方、前払式支払手段では、電子マネーを渡してもそれを円に換えることができません(商品券を想像してもらえればわかりやすいと思います)。「送金」としては不完全なものだということです。

 なお、「QRコード決済は資金移動」と書きましたが、タッチ決済の電子マネーを資金移動のスキームで実施することもできないわけではありません。ただ、どうやらそうした電子マネーサービスは現時点では無いようです。