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(我妻 佳祐:ミニマル金融研究所代表)

 遅ればせながら、ベストセラーになっている「DIE WITH ZERO」を読みました。普段、自己啓発本はめったに読まないのですが、これはタイトルを聞いたときに「良さそうな本だな」という直感がありましたが、それに違わずよい本でした。

 同書は、人生の幸福度を最大化させるためには死後に資産を残さず使い切ることが重要であることを説くものです。

 地獄の沙汰も金次第とはいいますが、三途の川の渡し賃くらいならともかく、膨大な財産を残したまま亡くなっても喜ぶのは遺族だけで、本人はメリットを享受することはできません。

 資産をちょうど使い切って、「ゼロで死ぬ」ことを意識した人生設計こそが幸福の最適化のために重要であるとの主張には説得力があります。

 とはいえ、なかなかピッタリ資産ゼロで死ぬことは簡単ではありません。自分がいつ死ぬかがわからないからこそ、人は「老後のため」といいながら、70になっても80になっても金を貯め続けるわけです。

 そこで、「ゼロで死ぬ」ために活用すべき金融商品として挙げられるのが、「終身年金」です。

 同書では「長寿年金」と翻訳されていますが、日本語では「終身年金」という方が一般的でしょう。

 終身年金とは、ある年齢から死亡するまで定期的に一定額を受け取ることができる金融商品です。これに対し、年金受取期間中に死亡したとしても、事前に定めた年数は一定額を受け取ることができる金融商品を「確定年金」といいます。

 手元で計算したところ、例えば、70歳の男性が2000万円の終身年金に加入したとすると、毎月の受取額は次のようになります(コストを無視した理論値です)。

 2000万円というのはちょっと前に大炎上した「2000万円報告書問題」から拝借した数字ですが、老後資金の目安としていろんなところで使われているのは怪我の功名でしょうか。

 自民党総裁に積極財政派の高市さんが選出されたことを受け、2025年10月6日には日本国債の長期金利が1.675%に達し、これは17年ぶりの水準とのことです。足下の金利状況でも、70歳から死ぬまで毎月ずっと15万円くらいは受け取れることになります。

 このくらいの金額を毎月受け取れるのであれば、他に国民年金や厚生年金などの老後資金もあるでしょうから、インフレは怖いですが、なんとか亡くなるまでお金の心配をしなくても大丈夫なメドは立ちそうです。

 また、インフレの進行や財政の悪化により金利が上昇すれば、毎月の受取額が20万円くらいになる可能性もあります。一般的に、高齢になればなるほど消費も減りますから、終身年金に多少の金利変動性を持たせれば、一定のインフレ対応もできる商品にもできるかもしれません。

 さて、この2000万円を、終身年金にせず、貯蓄として持ち続けた場合はどうなるでしょうか?