コンサルティング事業部に配属され、給料は1.3倍程度上がった。社長や社員たちは「仕事一筋」の雰囲気。「会社を大きくしていこう!」との熱意にあふれていた。業務量は多く、新しい仕事がどんどん降ってくる。かといって一つの「正解」があるわけではなく、仕事はいつも手探りだった。

 週に6日働くことや、深夜まで働く日もあった矢先。入社から8カ月程度がたち、心身に不調が現れた。ご飯を食べられなくなった。1日にコーヒー1杯で済ませる日もあった。在宅勤務の日もあったが、スケジュールはオンラインミーティングがびっしり詰まり、常に締め切りに追われる日々だった。

 ふとした時に涙が出るようになった。通勤中の電車や帰宅後の自宅でよく泣いていた。特別なきっかけがなくても涙が出た。気持ちはずっと落ち込んでいた。「売り上げが出ないのは自分が悪いからだ」と自らを責めた。お笑いや音楽のライブに行って気持ちを紛らわそうとしても、以前のように楽しめなくなっていた。

 筆者に相談があったのはこの頃である。溝口さんとは大学時代からの友人で連絡を取り合っていた。筆者自身がメンタルダウンによる退職、ジョブチェンジを経験していたので、話を聞いてほしいとのことだった。

 溝口さんからは、かなり辛い状況が伝わってきた。まずは心療内科に行くことを勧め、休職を検討してみるようにアドバイスした。「絶対に無理はしないで」と伝えた。

 溝口さんが心療内科に行くと、「適応障害」だと診断された。適応障害は強いストレスによる気分の落ち込み、意欲の低下といった症状が出る。放っておくと「うつ病」に悪化する可能性がある。医師からは休職を勧められた。

 溝口さんは「自分って価値がない。他人に迷惑をかけている」と感じていた。上司に相談すると「休職を考えてみてほしい」と言われたが、「休職したら会社に迷惑をかけてしまう」という気持ちが強く、退職を選んだ。