溝口さんはマーチャンダイザーとして5~6年働き、社内賞を受けるなど評価もされた。しかし、「顧客の顔が見えにくい仕事はあまり好きではなかった。正直、面白くなかった」という。
転機が訪れたのは2020年のコロナ禍。婦人服の売り上げが激減し、社内では新しい企画の立ち上げが議論された。溝口さんはすぐにアート展示の企画を提案し、採用が決まった。自社の倉庫を改装した大阪府内の店舗を使って、アート展示を始めることになった。
新企画は好評だった。油絵、抽象画、イラスト、テキスタイル(布作品)、アクセサリーなど、様々なアーティストとのコラボを実現し、時には音楽ライブを催すことも。集客は好調で、「やりたいことの60%くらいは実現できた」という。ただ、マーチャンダイザーの仕事と兼務しており、深夜までの残業や土日出勤も多く、2週間休みがない時期もあった。
スタートアップ企業への転職、メンタルダウン
溝口さんが新卒で入った会社を辞めたのは9年目である。5年目から10年目にかけて会社を辞める人が多いことは、統計データでも確認できる。
厚生労働省によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者が38.4%、新規大卒就職者が34.9%であり、いずれも上昇している(2024年10月発表)。ただし、3年目を超えても離職・転職の可能性は残る。10年前のデータだが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査(2015年3月)によると、現在の勤務先での勤続年数が「5年以上10年未満」の正社員は27.9%、「10年以上」は9.9%、「15年以上」は1.4%である。5年目から10年目にかけていわば「壁」がある。つまり、同じ会社で10年以上働く人はかなり少なくなる傾向にあるのだ。
転職の直接のきっかけは、仕事で出会ったスタートアップ企業の社長に「口説かれた」ことだった。溝口さんの働きぶりを見て、自社への転職を熱心に誘われたのだ。「うちの3番手になってほしい」と1年間以上誘われ、熱意にほだされた。「将来的には自分で起業したい」との思いもあり、新しい組織の動き方やマーケティングについて学び、仕事の面で成長したい気持ちもあった。2024年6月、飲食店の内装や開業支援を請け負うスタートアップ企業に移ることになった。