進化の素晴らしさに感銘をうける

 ユニークな視点からの本を読み終えて、いまさらながら大きな感銘をうけたのは、進化の素晴らしさである。フクロウの音源定位、チーターの高速走行や、犬のなかでも特に鼻の利くブラッドハウンドの嗅覚など、それぞれの動物が信じられないレベルの能力を獲得してきたことに驚いたのはいうまでもない。

 それだけではない。それぞれが、単に聴覚、嗅覚、筋力を進化させてきただけではないというのが、さらなる驚きだ。

 フクロウのあの特徴的な平べったい顔は、左右の耳へ届く音の時間差を大きくするためであること。チーターは高速での位置変換に耐えられるために、平衡感覚が他のネコ族に比べて突出して優れていること。犬は嗅覚受容体の種類が多いだけでなく、鼻の内部が臭いを感じるのに適した解剖学的構造になっていること。

 たとえ創造主がいたとしても、そこまでの配慮はできないのではないかと思えてしまうほどだ。基本的なところで試行錯誤にすぎない進化だが、その到達度には舌を巻くしかない。

驚くべき人間の感覚能力の多彩さ

 もうひとつ、この本を通して感心したのは、人間の感覚能力の多彩さとレベルの高さだ。日常生活においてそのほとんどを意識することはないが、信じられないくらい優れた潜在能力を持っている。「感覚を研ぎ澄ます」という言葉があるが、これら12の感覚を意識して生活すれば、生きていく悦びが増すにちがいない。まぁ、フェロモン的なものを感じすぎたりすると、問題を引き起こしかねないので、注意が必要かもしれませんけど。

仲野 徹(なかの・とおる) 1957年、大阪生まれ。大阪大学医学部卒業。内科医として勤務の後、基礎医学研究に従事し、1995年大阪大学教授。2022年の定年退職後は隠居として晴耕雨読の生活。書評サイトHONZのレビュアーや、読売新聞の読書委員を務めた。
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各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)

 この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。

 この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。

 私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。

 簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。

 それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。

 ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。

 少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。