出征
昭和15年(1940)に工芸学校を卒業すると、嵩は東京・日本橋にあった製薬会社の田邊元三郎商店(昭和18年に、東京田辺製薬株式会社に社名変更)に入社した。
嵩は宣伝部で、広告やポスターのデザインを手がけ、忙しくも楽しい日々を送っていたが、そんな生活は1年も経たないうちに終わりを告げる。
昭和16年(1941)1月、嵩のもとに召集令状が届いたのだ。
嵩は、陸軍第十二師団野戦重砲兵第六聯隊の補充隊(通称・西部第七十三部隊)に入隊する。
満年齢21歳だったこの日から5年の日々を、嵩は軍隊で過ごし、昭和20年(1945)8月、上海近郊の泗渓鎮(しけいちん)で終戦を迎えた。
嵩は前線で敵と戦うことは、一度もなかった。
だが、食糧不足による凄まじい飢えは経験している。この辛い体験が、『アンパンマン』のテーマに結晶するのだが(やなせたかし『明日をひらく言葉』)、それはもう少し先の話である。