皇居(江戸城)伏見櫓と二重橋 写真/show999/イメージマート
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(町田 明広:歴史学者)

岩瀬忠震の諸大名への発言

 安政4年(1857)12月28・29日、老中堀田正睦は諸大名を江戸城に招集し、岩瀬忠震がハリスとの間で交渉を進めた条約案を開示した。その場には、海防掛(土岐頼旨・鵜殿長鋭・岩瀬。29日は井上清直も)が参集した。

 岩瀬より、具体的な経緯や内容等の説明がなされた。岩瀬は説明にあたり、もしも意味が分からなかったり、あるいは異論があったりした場合、遠慮なく発言して欲しい。岩瀬自身がすべての答弁を行ないたい。議論が伯仲して夜を徹するような事態になっても、一向に構わない。しかしながら、皆さんが今日沈黙して論難を口にすることがなく、しかし、後日になって異論を唱えるとしたら、それこそ面従腹誹(表面上では、相手に服従する素振りをしているが、内心では反抗している有様)になることは免れないと公言した。

 それにしても、一介の幕吏が諸大名に対してここまで述べるとは、やり過ぎの感もあるだろう。とは言え、この言説には、岩瀬の決意と自信が現れているのだ。